社員が退職時に企業の機密情報を持ち出し、次の勤務先で不正利用する「手土産転職」が問題化しています。顧客情報や技術資料の流出は、企業の信用や競争力を大きく損なうため、早急な対策が必要です。予期せぬ内部不正に備えるためのポイントを解説します。

手土産転職とは?

手土産転職とは、社員が退職時に自社の情報を不正に持ち出し、転職先や個人的な利益のために利用する行為を指します。持ち出される情報には顧客リストや技術資料、営業ノウハウなどが含まれるため、企業にとって重大な損失につながりかねません。

特に、近年はデジタル化の進展によりデータが扱いやすくなり、USBメモリやクラウドストレージ、個人メールなどを使った持ち出しが容易です。

退職手続きが円満に進んでいるように見えても、その裏側で情報の流出が起きるケースもあります。とりわけ競合他社への転職時に発生しやすく、業界内での信頼関係を損なう深刻な問題として、広く認識されるようになりました。

手土産転職の事例

手土産転職はさまざまな業種で発生しており、単純なデータコピーから計画的な情報収集まで、その様態は多岐にわたります。よくある手土産転職の事例を確認しておきましょう。

顧客情報の持ち出し

退職する社員が、長年かけて営業部門が築き上げた顧客リストや取引先の情報を持ち出すケースは、「手土産転職」の中でも最も多く発生しています。顧客の連絡先、過去の購買履歴、商談の内容といった情報は、他の会社でもすぐに営業活動に使える、非常に価値の高い資産だからです。

具体的には、退職直前にデータベースから大量の顧客情報をダウンロードしたり、スマートフォンで撮影したりする手口が多く報告されています。こうした行為により、元の企業は長年培った顧客基盤を失い、売り上げの急激な減少に直面する可能性があります。

特にスタートアップなどでは、一人の営業担当者が抱える顧客が事業の根幹を成していることも多いため、影響は計り知れません。

技術資料やソースコードの流出

研究開発部門や技術部門に所属する社員が、設計図面やプログラムのソースコードなどを持ち出す事例もあります。これらの技術情報は、企業が多額の投資と時間をかけて開発した知的財産であり、競合他社に渡れば市場での優位性が一気に失われかねません。

実際、IT業界ではシステムのソースコードや開発資料などが、外部記憶媒体やクラウドストレージに保存され、離職した社員の転職先で流用されるケースが後を絶ちません。

また製造業においても、独自の製造プロセスや品質管理手法が流出することで、当該企業の技術的アドバンテージが無効化されてしまう可能性があります。

在職中のメールや資料の転送

退職前に社員が業務メールを私用のアドレスへ転送し、そのまま資料が外部に流出する事例もあります。表向きは引き継ぎの準備や自宅作業などを理由にしていても、実際には社外に情報を持ち出してしまうケースは、決して少なくありません。

メールに添付された議事録や提案書・見積データなどは内部資料としての価値が高く、無断転送は企業の情報統制を大きく損なうだけでなく、意図せず競合に機密が渡るリスクも生じます。

また、社員本人が悪意を持っていない場合でも、転送先の管理が甘ければ第三者に閲覧されたり、後から不正利用されたりする可能性もあるでしょう。

このような予期せぬ情報の流出を防ぐために、メールの転送を監視する仕組みや、資料の保存方法を制限するなどの対策が必要です。

手土産転職が増えている背景

手土産転職が増加している背景には、転職市場の活性化と雇用の流動性の向上があります。

近年は転職が一般的になり、キャリアアップを目的として、人材が短いサイクルで移動するようになりました。その結果、より良い条件での転職を実現するため、機密情報を持ち出す誘惑に駆られる人が増えています。

一方、モバイル端末やクラウドサービスの普及により、大量のデータを簡単に持ち出せる環境にあることも、情報の持ち出しが起こりやすい原因です。

さらにリモートワークの普及により、個人の端末で業務データにアクセスする場面も多く、企業の目が届きにくい点もリスクを高めています。

手土産転職を防ぐには?

手土産転職による情報漏洩を防ぐためには、退職者の不正行為を抑制するための多角的な対策が求められます。日常的な情報管理の強化、退職時の厳格なチェック体制、そして技術的なツールの導入という三つの柱を中心に、総合的な防衛策を講じることが重要です。

情報管理体制の強化

手土産転職を防ぐためには、日常的な情報管理体制の整備が欠かせません。どの情報がどこにあり、誰がアクセスできるのかを明確にして、アクセス権限は最小限に絞りましょう。

また、社員が情報の運用ルールを理解していない状態では、たとえ悪意がなくても不適切な持ち出しが発生する可能性があります。データの分類や重要度を設定し、取り扱いのルールを全社的に共有することも重要です。

情報管理の意識向上のためには、定期的な社員教育が不可欠です。情報資産の重要性を全社員に浸透させることで、各人が自覚を持って情報管理のルールを遵守しやすくなります。結果として、情報の持ち出しに対する抑止力が強化され、情報漏洩のリスク低減につながります。

退職時の情報漏洩対策の徹底

退職者による情報持ち出しを防ぐには、退職時におけるチェック体制の強化も必要です。退職の申し出があった時点で、当該社員のアクセス権限を見直し、業務上不要な情報へのアクセスを制限しましょう。

社員の退職日が近づいたら、PCやスマートフォンなどの業務端末を回収し、不正なデータコピーや、外部への転送がないか確認します。メールの送受信履歴や、クラウドストレージへのアップロード履歴も確認し、疑わしい動きがあれば詳細な調査を実施しましょう。

さらに退職面談では、情報持ち出しの禁止を改めて説明し、返却物のチェックリストを用いて、社内資料や記憶媒体の返却を求める必要があります。

退職後も一定期間は競業避止義務や、機密保持義務が継続することを書面で確認し、違反があった場合の措置についても明示することが大事です。

情報の持ち出しを防ぐツールの導入

技術的な対策として、情報の持ち出しを検知・制御できるツールを導入するのも有効です。USBメモリの使用制限や、個人メール宛の送信のブロックなど、ツールによって実現できる対策は多くあります。

社員が意図的に情報を持ち出す場合だけではなく、誤って情報を外部へ送信してしまう行為の抑制も可能です。さらに、操作ログを詳細に記録するツールを用いれば、退職時の異常な挙動を可視化しやすくなるので、積極的に導入を検討してみましょう。

こうした技術的対策は人的監視の限界を補い、24時間体制で情報を守る仕組みとして機能します。

手土産転職などの内部不正は総合的な対策が必要

手土産転職のような内部不正は、単独の施策だけでは防ぐのが困難な問題です。社員の意識改革や組織体制の強化を含め、総合的な取り組みが求められます。

情報管理ルールの明確化や社員教育の徹底、退職時の厳格な対応に加えて、持ち出しを監視するツールの導入など、多方面からの対策に注力しましょう。環境の変化に合わせて、定期的に防衛策を見直すことも大切です。

なお、社員のシステムの操作ログを把握し、不審な挙動を早期に検知するには、専用ツールの活用が効果的です。「Watchy」を導入すれば、日常的な内部不正の予兆を捉えやすくなり、退職前後のリスク管理にも役立ちます。

必要な機能だけを選択して導入可能で、情シスでなくても簡単に設定・操作できる管理画面が特徴です。トライアル版も利用できるので、この機会にぜひ導入をご検討ください。

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執筆者

Watchy編集部

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