企業が保有する営業秘密の重要性が高まる中、経済産業省の指針も数年ぶりに改定されています。現代の情報環境や法改正などを踏まえて、管理体制や守るべき要点が見直されているので、この機会に実務で押さえるべきポイントを整理しておきましょう。
目次
営業秘密管理指針とは?
営業秘密管理指針は、企業が保有する営業活動に関する重要な情報を、適切に保護するための考え方と管理方法を示したものです。法律で求められた管理要件を満たす実務的な手引きとして、多くの企業に活用されています。
まずは営業秘密管理指針の概要と、そもそも営業指針とはどういったものか、基本的なところを確認しておきましょう。
経済産業省による営業秘密に関する指針
経済産業省は、企業の営業秘密の保護を支援するため、不正競争防止法の解釈や運用に関する指針を公表しており、営業秘密管理指針はその中核を成すものです。
後述する秘密管理性・有用性・非公知性の3要件を、どのように満たすべきか、判例や実務例を踏まえた考え方を提示しています。
同指針は法的拘束力を持つものではありませんが、裁判所における判断や企業の実務対応において、重要な参考資料です。定期的な改定により、最新の社会情勢や技術動向に対応した内容が記載されているので、自社の情報管理体制を見直す際の基準として活用しましょう。
営業秘密管理指針 平成15年1月30日(最終改訂:令和7年3月31日)|経済産業省
そもそも営業秘密とは?
営業秘密とは、不正競争防止法によって保護される企業の重要情報であり、「秘密管理性」「有用性」「非公知性」の3要件を満たすことが求められます。まず秘密管理性とは、その情報を秘密として扱うために、合理的な管理措置が取られている状態を指す概念です。
一方、有用性は当該情報が事業活動に役立ち、企業の競争力に寄与するものであるかを示すものです。技術情報や顧客データだけでなく、業務ノウハウや分析データなども、有用性が認められることがあります。
さらに、非公知性は一般に知られていない、または容易に入手できない情報であることを意味する要件です。公開情報や業界内で広く認識されている内容は該当しません。
これらの要件を満たすことで、顧客リストや技術データ・製品の開発手法などが、営業秘密として法的に保護されます。企業が重要な営業情報を守るためには、該当する情報を適切に分類し、日常的な運用レベルにおいて徹底した管理措置が求められます。
営業秘密管理指針改定の背景
営業秘密管理指針は2003年に策定され、2025年3月31日に改定されています。これは企業を取り巻く情報環境の急速な変化と、それに伴う新たな法制度や、社会的要請の高まりを背景としたものです。
デジタル技術の進展により、情報の取り扱い方法や漏洩リスクが従来とは異なる状況となり、これに対応した管理手法の見直しが求められました。詳しくみていきましょう。
情報環境の変化
近年、クラウドサービスの普及やリモートワークの常態化により、企業の情報管理の環境は劇的に変化しています。従来のように書類やオフィス内のPCで情報を管理する形態から、インターネット経由でのアクセスや、自宅での業務などが一般的になりました。
この変化に伴い、営業秘密へのアクセス経路が多様化し、営業秘密の価値や管理の重要性が高まっています。従来の物理的管理を前提とした指針では不十分となり、デジタル時代に即した新たな管理基準の整備が必要となった背景があります。
法制度・社会的要請
国際的な技術競争の激化や知的財産保護の重要性の高まりを受け、営業秘密に関する法制度も進化を続けています。不正競争防止法の改正により罰則が強化されるとともに、サイバーセキュリティ対策の義務化など、関連法制度も整備されてきました。
また、企業のガバナンスの強化や情報セキュリティ体制の構築が、投資家や取引先から求められるようになり、適切な営業秘密管理が企業価値の評価基準の一つとなっています。
加えて、退職者による情報の持ち出しなど、営業秘密侵害事件が社会問題化したことで、より実効性のある管理体制の構築が求められるようになりました。こうした法制度の発展や社会的要請の高まりなども、同指針が改定された理由の一つです。
営業秘密管理指針改定のポイント
それでは、営業秘密管理指針の改定のポイントを整理しておきましょう。同改定では、デジタル化に対応した管理手法の明確化や、各要件における判断基準の具体化が図られました。総説部分から個別要件まで、実務で活用しやすい内容に見直されています。
「総説」の改定内容
総説部分では営業秘密の民事・刑事における要件が、基本的に同一であることが明確化され、法的整合性が確認されました。情報漏洩が発生した際の法的対応の一貫性が担保され、企業はどのような管理措置を講じるべきか、判断がしやすくなっています。
また、限定提供データと営業秘密の関係も整理されました。特定の研究機関や共同開発先に提供する情報であっても、適切な管理下にある場合、営業秘密として保護されることが示されています。
さらに、大学や研究機関も指針の対象事業者として明記され、産学連携や共同研究における情報管理の重要性が強調されています。企業が扱う情報の種類や利用形態が多様化するなか、保護対象の範囲と根拠を改めて整理し、実務上の指針としての明確性を高めた形です。
「秘密管理性」に関する改定内容
秘密管理性に関する箇所では、管理対象者の明確化や情報分別管理、新しい管理方法の提示などの項目が整理・改正されました。
例えば、クラウドの活用や社内外の情報共有に対する管理措置、媒体やアクセス権限ごとの差異など、情報の性質や利用状況に応じた管理方法が提示されています。
また、従業員教育や契約書による秘密保持義務の明確化、ログ管理や閲覧記録の保持など、実務で求められる運用レベルでの対応も強調されました。
これにより、企業は単に規定を整備するだけでなく、日常業務の中で秘密管理が実効的に機能していることを確認し、法的保護の立証につなげやすくなっています。
「有用性」に関する改定内容
有用性に関しては、事業活動に役立つ情報であるかを、柔軟に判断する必要性が示されました。従来は、技術情報や顧客データなどが中心でしたが、近年はデータの活用の幅が広がり、分析用データや内部業務のノウハウなども、営業秘密に該当し得るとされています。
改定指針では形式的な分類ではなく、企業にとって競争力の源泉になるかといった観点から判断すべきとされ、実務での判断基準が明確になりました。企業は自社の情報資産を再評価し、どの情報が営業秘密として管理されるべきか、きちんと整理する必要があります。
「非公知性」に関する改定内容
非公知性に関する内容では、ダークウェブ上での情報漏洩や、組み合わせ情報の公知性の判断、リバースエンジニアリングなど新しい観点が追加されました。
単体では公知とされる情報でも、複数の情報の組み合わせで企業の競争力に影響を与える場合、営業秘密として保護される可能性が明確化されています。
また、技術や製品情報の解析手法が高度化する中で、リバースエンジニアリングによる入手可能性の評価方法も示されました。
情報の非公知性を維持するため、企業にはより一層のアクセス制限の厳格化や、情報の取り扱いルールの明確化などが求められます。さらに、提供先との契約や権限管理の徹底、日常業務で安全に営業情報を活用できる体制の整備も必要です。
企業実態に即した営業秘密の管理体制を構築する
営業秘密管理指針の改定は、多様化した情報環境に対応し、企業がより実効的な管理体制を構築するためのベースとなるものです。形式的なルールを整えるだけでは不十分で、実際の業務フローや情報の利用実態に即した管理体制づくりが必要です。
特に、テレワークの普及や外部サービスの利用の拡大などを踏まえると、アクセス管理の体制やデータの保存方法など、適宜見直す必要があるでしょう。営業秘密として管理する情報の棚卸しや、企業の競争力に資する情報を適切に保全する姿勢も求められます。
同指針を単なるガイドではなく、実務改善の指標として捉えて、自社の状況に合った管理体制の構築を目指しましょう。
Watchy編集部
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