従来は常識とされていたパスワードの定期変更ですが、現在では総務省をはじめとして、多くの専門機関が非推奨としています。パスワード定期変更が推奨されなくなった背景や、定期変更のデメリット、有効なパスワード管理の方法などを知っておきましょう。
目次
パスワードの定期変更は推奨されない?
従来、セキュリティ対策の基本とされていたパスワードの定期変更ですが、近年は総務省をはじめ、専門機関が方針を見直しています。まずは、パスワードの定期変更に関する方針転換の経緯や、その背景を確認しておきましょう。
総務省はパスワードの定期変更は不要と発表
総務省は公式Webサイト(国民のためのサイバーセキュリティサイト)において、パスワードの定期変更は必要ないとの見解を明確に示しています。
同省はサービスへの不正アクセスが発生した場合や、パスワードが漏洩した可能性がある場合を除き、変更は不要であるとリリースしています。
これは2017年、米国国立標準技術研究所(NIST)により、ガイドラインとして示されたものを反映したものです。同研究所は、サービスの提供側が利用者に対して、定期的なパスワードの変更を求めるべきではないと示しています。
日本でも国家サイバー統括室(NCO)により、同じ内容のリリースがされたことを受けて、多くのセキュリティ関連機関が同様の見解を示すようになりました。
安全なパスワードの設定・管理 | 国民のためのサイバーセキュリティサイト
パスワードの定期変更が非推奨とされた背景
パスワードの定期変更が非推奨とされた最大の理由は、ユーザーの行動パターンに関する研究結果にあります。定期変更を求められたユーザーの多くは、覚えやすさを優先して、単純なパスワードを設定する傾向が明らかになったためです。
事実、「password1」から「password2」のように、数字を変えるだけの安易な変更をする人は少なくありません。
「password」という単語自体が推測されやすい上に、複雑なパスワードを覚えられずデスクの周りにメモを残したり、パスワードを使い回したりするユーザーも多いのが実情です。
このように、頻繁なパスワードの変更要求は、ユーザーに心理的な負担を与えてしまいます。その結果、セキュリティへの関心を低下させる要因として、近年では非推奨とされるに至っています。
パスワードを定期変更するデメリット
パスワードの定期変更は、一見すると安全性を高めるように思えますが、実際には多くの問題があります。パスワードを頻繁に変更するデメリットについて、ここで整理しておきましょう。
パスワード品質の低下と形骸化を招く
パスワードの定期変更を義務化すると、多くのユーザーは複雑な文字列を考える負担を避けるため、単純なパスワードを設定しがちになります。
数字を一桁増やすだけといった変更は、記憶に残りやすい一方で、攻撃者にとっても推測しやすく、総当たり攻撃の対象にされかねません。
こうした負担はパスワードの形骸化を生み、本来の目的である安全性の確保を損ねる要因となります。パスワードを変更すること自体が目的化し、強度の維持が二の次になってしまうケースは、決して少なくないのが実態です。
ユーザーの負担が増えてしまう
パスワードの変更を定期的に求められると、ユーザーはその都度新しい文字列を考え、覚え直す必要が出てきます。この作業は業務の合間にされることが多く、上記のように心理的な負担やストレスにつながるのもデメリットです。
特に、近年は複数のシステムや、クラウドサービスを利用するケースが多くあります。それぞれに異なる複雑なパスワードを設定し、頻繁に変更しなければならない場合、記憶ミスやログインの失敗が繰り返されるケースもあるでしょう。
そうなると、ユーザーはパスワードの強度よりも覚えやすさを優先しがちになり、安全性が損なわれるリスクが高まります。
作業効率が低下する
パスワードの変更作業にかかる時間は、一見短いように思えますが、複数のアカウントを扱うユーザーにとっては、意外と大きな時間的ロスになります。さらに、パスワードの変更時期になるたび、システム管理者への問い合わせが増える企業は少なくありません。
特に大規模な組織では、変更月にヘルプデスクの作業が増えてしまい、本来注力すべき業務に集中できなくなるケースがあります。
また、パスワードの変更直後は入力ミスも頻発し、再設定の作業に追われて、余計な時間を費やしてしまう場合もあるでしょう。こうした状況が重なると、組織全体の生産性にも悪い影響が出る可能性があります。
パスワードの安全性を高めるポイント
パスワードの安全性を高めるには、定期的な変更を繰り返すよりも、複雑で強固な文字列のパスワードを適切に管理し続けることが重要です。基本的には12文字以上で、大文字・小文字・数字・記号を組み合わせた、予測困難な文字列を設定しましょう。
また複数のサービスで、同じパスワードを使い回さないことも重要です。同じパスワードを使用していると、一つのサービスで情報漏洩が発生した場合、同じパスワードを使用している他のアカウントまで危険にさらされてしまいます。
異なるパスワードを適切に設定・管理することで、万が一情報の流出が起きた際に、被害の拡大を防げます。
さらに、二段階認証や多要素認証などを、積極的に活用することも重要です。パスワードだけに頼らない多層的な防御により、攻撃者が不正アクセスを試みても、突破しにくい環境を構築しましょう。
パスワード管理ソフトの導入も検討しよう
パスワードの安全性を維持しつつ、ユーザーの負担を減らすには、パスワード管理ソフトの活用がおすすめです。複雑なパスワードを自動で生成し、安全に保管できるため、ユーザーの負担を大幅に軽減しつつ、強力なパスワードを継続的に利用できる環境を整えられます。
さらに、パスワード専用の管理ソフトは、複数のサービスのログイン情報を一元的に管理できます。使い回しのリスクを避けつつ利便性も確保できるので、うまく活用しつつ、安全なパスワードの運用環境を構築しましょう。
Watchy編集部
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