情報漏洩の原因は複雑で多様化しており、外部からの悪意ある攻撃と、内部の人的要因が複合的に関与するケースが増加しています。情報漏洩の主な原因とともに、企業が取るべき具体的な対策を確認しておきましょう。漏洩が発生した際にすべき対応も解説します。
企業の情報漏洩の主な原因
企業の情報漏洩の原因は、近年複雑かつ多様化しており、外部からの悪意ある攻撃と、内部の人的要因が複合的に関与するケースも増加しています。
情報資産が広範囲に分散している組織も多く、従来の境界型セキュリティでは、対応しきれない場合も珍しくありません。まずは、情報漏洩の「外部的な要因」と「内部的な要因」を整理し、それぞれ理解しておきましょう。
外部的な要因による漏洩
情報漏洩の外部的な要因としては、ハッカーやサイバー犯罪者による不正アクセスや、マルウェアの感染などが挙げられます。特に、近年問題となっている標的型攻撃やランサムウェア攻撃は、企業の機密情報を直接狙うものであり、被害が発生すれば業務停止や多額の金銭的損失につながります。
また、クラウドサービスの利用が拡大する中で、設定の不備を突かれて情報が流出するケースも少なくありません。取引先や委託先を経由した攻撃も増加しており、自社だけではなく、サプライチェーン全体を含めた対策が求められています。
内部的な要因による漏洩
内部要因による情報漏洩は、悪意のある内部不正と、社員の過失による情報流出に大別されます。
内部不正の場合、社員によるアクセス権限を悪用した機密情報の漏洩や、競合他社への転職に際して、顧客情報や技術情報の持ち出しを図るのが典型的なパターンです。こうした悪意ある行為は、PCの操作ログなどの客観的なデータがなければ、その兆候すら掴むことができません。一方、社員の過失による漏洩は、メールの誤送信やUSBメモリの紛失、書類の置き忘れなどのミスに起因するものが多くを占めます。
特に近年はテレワークの普及により、社員の働く環境が多様化しており、従来の物理的なセキュリティ管理が及ばず、社員の過失による情報漏洩のリスクが高まっています。さらに、社員のセキュリティ意識の個人差や、業務効率を優先しセキュリティ上のルールを軽視する企業文化なども、内部的な情報漏洩リスクが増大している要因です。
情報漏洩の原因となるセキュリティ上の脅威
現代の企業が直面するセキュリティ上の脅威は多様化しており、従来型の境界防御だけでは対応が困難な状況です。攻撃手法の高度化により複数の脅威が組み合わさり、企業システムに侵入するケースも増加しているため、包括的な脅威の分析・対策が求められます。
ここでは、情報漏洩の原因となる代表的な脅威を確認・整理しておきましょう。なお、以下で紹介する脅威は、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)の「情報セキュリティ10大脅威2025(組織編)」で挙げられているものです。2024年に発生したセキュリティ事故や、攻撃の状況などから選び出されています。
※出典:情報セキュリティ10大脅威2025 組織編~どこから攻撃されても防御ができる十分なセキュリティ対策を~|IPA 独立行政法人情報処理推進機構 セキュリティセンター
ランサム攻撃による被害
ランサム攻撃は企業のデータを勝手に暗号化し、復旧のための金銭を要求する攻撃手法です。これにより業務の継続が不可能になるケースも多く、経済的損失に加えて、顧客データの流出などにより取引先との関係が悪化する恐れもあります。
特に近年はデータの暗号化に加えて、窃取データの公開を脅迫材料に使う「二重脅迫型」の攻撃が増えており、対応がより困難になっています。セキュリティパッチの適用や、バックアップの多重管理などの予防策が必要です。
サプライチェーンや委託先を狙った攻撃
サプライチェーン攻撃は、標的とした企業を直接攻撃するのではなく、まずは関連企業やサービスの提供者を経由して、最終目標に到達する手法です。
例えば、ソフトウェアサプライチェーンへの攻撃では、開発ツールやライブラリに悪意のあるコードが仕込まれ、ユーザー企業が一斉に被害を受けるケースがあります。クラウドサービスの提供者などへの攻撃も同様で、一つのベンダーが侵害されることで、顧客企業が影響を受けることもあります。
また、委託先企業のセキュリティレベルが本社より低い場合、そこが攻撃の起点となりやすく、委託先が本社ネットワークへの侵入経路にされることも少なくありません。
システムの脆弱性を突いた攻撃
システムの脆弱性を悪用した攻撃は、ソフトウェアの欠陥や設定ミスなどを標的としており、古典的でありながら、依然として脅威度の高い手法です。
ゼロデイ脆弱性を利用した攻撃では、セキュリティパッチが提供される前に攻撃が実行されるため、従来の防御策では対応が困難です。既知の脆弱性であっても、パッチ適用の遅れや適用漏れにより、攻撃を受ける恐れがあります。
また、Webアプリケーションの脆弱性では、SQLインジェクションやクロスサイトスクリプティングなどの手法により、データベース内の機密情報が窃取される危険性があります。IT資産管理の範囲外にあるデバイスの脆弱性が、新たな攻撃経路として悪用されるケースも珍しくありません。
内部不正による情報漏洩
内部不正による情報漏洩は発見が困難で、被害が拡大しやすいのが特徴です。システムへの正当なアクセス権限を持つ社員による不正行為は、管理者の監視をすり抜けやすく、長期間にわたって継続される恐れがあります。
特に転職や退職に伴う機密情報の持ち出しは、当該社員の競合他社への転職が決定してから、実際の退職までの期間に集中的に行われる傾向があります。正当な権限を利用した不正行為の兆候(大量のファイルアクセスやUSB接続など)を早期に把握できるかどうかが、被害を最小限に抑える唯一の鍵となります。
さらに金銭的動機による内部不正も、個人情報や顧客データが外部の犯罪組織に売却される場合もあり、被害の範囲と影響の把握が困難です。
機密情報などを狙った標的型攻撃
標的型攻撃は、特定の企業や業界を狙って実行されるサイバー攻撃です。攻撃者は対象企業の業務内容や組織構造を綿密に調査し、巧妙なフィッシングメールを送ったり、不正プログラムを仕掛けたりします。
目的は技術情報や顧客データなどの機密情報であり、被害が発生すると、企業は競争力の低下や顧客離れといった、深刻な打撃を受けてしまいかねません。さらに、取引先や関係機関にまで影響が及ぶ場合もあり、信用の回復には長期間を要するケースも考えられます。
標的型攻撃は一度成功すると継続的に侵入される危険性も高いため、早期の検知と防御体制の強化が必要です。
リモートワークの環境や仕組みを狙った攻撃
近年はテレワーク・リモートワークの普及により、従来の企業ネットワークの境界が曖昧になり、新たな攻撃経路が生まれています。家庭用ネットワークのセキュリティレベルは企業ネットワークより低く、攻撃者にとって侵入しやすい環境です。
例えば、VPN接続の脆弱性を突いた攻撃では、認証情報の窃取やVPNサーバー自体への侵入により、企業ネットワークが不正なアクセスを受けるケースがあります。個人デバイスの業務利用(BYOD)では、プライベートとビジネスの境界が曖昧になり、マルウェア感染やデータ漏洩のリスクが高まります。
またクラウドサービスの利用増加に伴い、適切な設定管理が行われていないクラウドストレージから、機密情報が漏洩するケースも少なくありません。
地政学的リスクに起因するサイバー攻撃
国際情勢の緊張化に伴い、国家が関与するサイバー攻撃が、国内企業にも波及するリスクが高まっている状況です。重要なインフラや戦略的産業に属する企業は、政治的・軍事的な目的での攻撃対象となる恐れがあり、通常の経済的動機による攻撃とは異なる脅威レベルに直面しています。
さらに、経済制裁や貿易摩擦の副産物として、関連企業がサイバー攻撃の標的となることもあり、企業の事業活動が国際政治の影響を直接受ける状況も生まれやすくなっています。
分散型サービス妨害攻撃(DDoS攻撃)
DDoS攻撃は、大量のトラフィックを標的のサーバーに送信して、ターゲットのサービスを停止させる攻撃です。近年は攻撃の規模と巧妙さが増しており、IoTデバイスを乗っ取って構築したボットネットによる攻撃では、従来の防御システムでは処理しきれない規模で、トラフィックが発生するケースもあります。
単独で実行される攻撃もありますが、他の攻撃の隠れみのとして利用されることも多いのが、DDoS攻撃の特徴です。セキュリティチームの注意をそらしている間に、本命の攻撃が実行される複合攻撃を受けるケースもあるので、早期の検知と継続的な監視体制の構築が欠かせません。
ビジネスメール詐欺
ビジネスメール詐欺は、取引先や上司を装った偽のメールを送りつけ、金銭や情報を詐取する手口です。メールのやりとりは日常業務の一部であるため、偽装を見抜くのは困難であり、被害は金銭的損失だけでなく、社内外への信用失墜にもつながりかねません。
特に海外との取引や多拠点展開を行う企業では、言語や文化の違いを突かれるケースも多く、被害額が高額化する傾向にあります。社員が日常的に送受信するメールが狙われる可能性があるため、技術的な対策と合わせて、徹底したセキュリティ教育が求められます。
不注意による情報漏洩
情報漏洩は、悪意がなくとも重大な結果を招く可能性があるため、継続的な教育と仕組みづくりが不可欠です。メールの誤送信では、誤った宛先や添付ファイルの取り違えにより、機密情報が無関係な相手に送られてしまうケースが多く見られます。
また、USBメモリやノートパソコンの紛失・盗難も物理的なデータ流出の典型例です。これらが暗号化されていない場合、情報が直接読み取られる危険性があります。データの持ち出しや外部デバイスの接続を操作ログで記録し、ルール違反を可視化できる仕組みは、社員の不注意を抑止し、セキュリティ意識の維持に大きく貢献します。
さらに、印刷物の取り忘れや廃棄ミスも重要な漏洩経路となり、機密文書が不適切に処理されることで、第三者の目に触れる可能性も考えられます。
情報漏洩を防ぐために必要な対策
情報漏洩を防ぐためには、技術的な強化だけでなく、従業員教育や組織体制の整備が必要です。企業が取るべき対策について、詳しく見ていきましょう。
システムの運用ルールの整備
まずは、情報の取り扱いに関して、社内ルールの見直しが必要です。社内へのUSBの持ち込みや、社員が私用のPCやスマホでのアクセスを禁止するなど、基本的なルールを整備しましょう。業務システムへのアクセス権限も必要最低限に絞り、定期的な監査により、不正アクセスや情報漏洩のリスクを抑制することが重要です。
明文化したルールに従って業務システムを運用することで、社員は潜在的な情報漏洩のリスクを事前に察知でき、適切な対応を取れるようになります。
認証・権限管理の強化
強固な認証システムの構築は、不正アクセスを防ぐための基本的な対策です。まずは多要素認証の導入により、パスワード単独では突破困難な認証プロセスを実現し、フィッシング攻撃や認証情報の漏洩に対する耐性を向上させましょう。
また、シングルサインオン(SSO)システムを活用すれば、ユーザーの利便性を向上させつつ、一元的なアクセス制御とログ管理を実現できます。加えて、特権アクセス管理(PAM)の導入により、管理者権限の厳格な制御と監視を行い、内部不正や権限の悪用を防止するとよいでしょう。
端末・デバイスの一元管理
社内のIT資産を一元的に管理することで、脅威を早期に発見できる体制を構築しましょう。モバイルデバイス管理(MDM)システムを導入すれば、端末の利用状況を把握し、不審な挙動があれば、即座に制限をかけられるようになります。
さらに資産管理台帳を整備し、全てのIT機器の状態を把握し、脆弱性の有無を確認できるようにすることも重要です。これにより未承認の端末による接続や、社員による不正利用を抑止できます。
徹底した社員のセキュリティ教育
徹底した社員教育は、人的ミスによる情報漏洩のリスクを減らすための重要な取り組みです。定期的な研修を実施し、メール送信時の確認やファイルの取り扱い方法など、日常業務で起こりがちなミスを防ぐための知識の定着を図りましょう。
また、サイバー攻撃の手口に関する注意喚起も必要です。例えば、フィッシングメールの特徴を学ぶトレーニングを通して、社員が怪しいメールに反応しない習慣を身に付けられるでしょう。研修を通して情報セキュリティの重要性を共有し、社員の間にセキュリティに関する意識を醸成することが大事です。
ネットワーク管理・ログ管理
外部からの攻撃対策だけでは防げない、内部リスクに対応するには、包括的なネットワーク監視とログ分析体制の構築も必要です。通信の状態やアクセス記録、ファイルの移動、外部デバイスの接続など、社員の具体的な操作履歴をを常に把握することで、不審な行動を早期に検知でき、重大な情報漏洩を未然に防げるようになります。
特に、外部デバイスの接続や大量データの転送といった挙動は、社員の通常業務とは異なる不正の兆候として浮かび上がりやすいため、リアルタイムでの検知が有効です。さらに、ログを長期的に蓄積・分析することで、過去の事例から傾向を把握し、セキュリティポリシーの改善や社員教育のブラッシュアップにつなげられます。
情報漏洩が発生したらどうする?
万全の対策を講じても、セキュリティリスクは完全にゼロにすることはできません。万が一、情報漏洩が発生した際には、被害の拡大防止と信頼の回復に努める必要があります。情報漏洩が発生した際に取るべき対応も確認しておきましょう。
被害範囲の把握と原因の調査
社内で情報漏洩が起こった際、最優先で実施すべきは、被害の全容の把握と原因の特定です。影響を受けたシステムとデータの範囲を正確に特定し、漏洩した情報の種類や件数・機密度レベルを詳細に調査します。
フォレンジック調査では、攻撃経路の特定や攻撃者の侵入時期、使用された攻撃手法の解明を通じて、類似攻撃の再発防止に必要な情報を収集しましょう。内部システムのログ分析により、不正アクセスの痕跡や異常な操作履歴を特定することも大切です。
被害の拡大を防ぐための緊急対応
被害の拡大防止は、インシデント対応における最重要課題です。感染した端末の隔離や通信遮断、アカウントの利用停止といった緊急措置を直ちに講じなければいけません。その間にも業務継続への影響を考慮し、復旧計画を進めることが求められます。
場当たり的な対応ではなく、事前に定めたインシデント対応計画をベースに、迅速かつ統制の取れた行動を取れる体制を整えておきましょう。必要に応じて、外部のセキュリティ専門機関やベンダーとも連携し、技術的な支援を得ることも大事です。
顧客・取引先・関係機関への報告と説明
情報漏洩は企業内部だけの問題ではなく、顧客や取引先といったステークホルダーにも直接的な影響を与えます。漏洩の事実が判明した段階で、適切な報告と説明が必要です。対象となった情報の種類や件数とともに、自社が講じた対応策と今後の再発防止策について、誠実に伝えなければいけません。
また、個人情報保護法などの関連法令では、監督機関への報告義務が定められている場合もあるので、法令順守の観点からも迅速な行動が求められます。
再発防止策の立案・実行
インシデントの対応後は、必ず再発防止策を立案・実行しましょう。原因調査で明らかになった問題点を踏まえて、システムや運用体制をどのような改善をするか、明確にしなければいけません。
例えば、アクセス制御の強化やパッチ管理の徹底、社員教育の見直しなど、技術的・人的両面からの対策が不可欠です。定期的なセキュリティ監査や外部専門家による診断なども取り入れ、脆弱性を継続的にチェックする仕組みを整えましょう。
また継続的な改善プロセスの確立により、セキュリティ対策の定期的な見直しや更新を制度化し、脅威への適応能力の強化を図る必要があります。
情報漏洩を防ぐなら「Watchy」の導入がおすすめ
企業の情報漏洩対策は、外部からの脅威と内部リスクの両面について、きちんと対応する必要があります。技術的な防御システムの導入と並行して、社員教育や運用ルールの整備により、内部不正や社員の過失といった人的要因による漏洩を防止しましょう。
また、ネットワークやシステムの監視・ログ解析を効率化・自動化することで、異常を素早く検知できる体制を構築することも重要です。「Watchy」ならば、システムへのアクセス状況やデータの異常をリアルタイムで把握でき、小さな異常も早期に発見が可能です。
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Watchy編集部
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