労働時間の管理は、従業員の健康維持に欠かせないテーマです。しかし現場では、記録の不備やツールの未整備による問題も見られます。企業が抱える労働管理の課題と、取り組むべき施策を整理しておきましょう。労働時間管理におすすめのツールも紹介します。

労働時間把握の現状と課題

2019年の働き方改革関連法の施行により、企業には従業員の労働時間を客観的に把握することが義務付けられました。しかし現実には中小企業を中心に、従業員の労働時間の管理体制が十分に整っていないケースも、いまだ多く見受けられます。

紙やExcelによる勤怠管理では入力ミスや集計の遅れが生じやすく、残業時間の把握漏れにつながることが少なくありません。その結果、労使間のトラブルを抱える企業や、労働基準監督署からの是正勧告を受ける事例もあります。

長時間労働の実態を放置すると、従業員の健康被害や離職率の上昇といった深刻な問題につながるため、多くの企業で効率的かつ正確な労働時間の管理が急務となっています。

企業が順守すべき労働時間の管理義務とは?

上記のように、企業には労働基準法に基づき、従業員の労働時間を正確に記録・保存し、過重労働を防止する義務があります。これは単なる義務遂行ではなく、企業に課せられた安全配慮義務を果たし、職場環境を改善する上でも欠かせない取り組みです。企業が順守すべき労働時間の管理義務について、基本的なところを押さえておきましょう。

そもそも労働時間とは何を指すのか

労働時間とは、従業員が使用者(企業)の指揮命令下に置かれている時間を指し、単に業務をこなしている時間だけに限りません。以下のように、準備作業や後片付けといった付随的な業務も含まれ、労働基準法上は「使用者の指揮命令下にある時間」が基準となります。

  • 制服の着用や準備時間
  • 営業後の職場の掃除時間
  • 待機時間(指示があればすぐに業務に従事できる状態)
  • 義務付けられた研修や教育訓練

企業側が「業務外」と判断していても、実態として拘束されていれば、労働時間と見なされる可能性があります。この点を誤解していると、未払い残業の発生や不適正な労働時間管理に発展しかねません。管理者は正しい労働時間の定義を理解しておく必要があります。

適正な労働時間管理が必要とされる理由

労働時間の管理は単に法律上の義務だけではなく、従業員の心身の健康を守り、生産性を維持するための基盤となります。長時間労働が慢性化すれば、過労死やうつ病などのリスクも高まり、社会的な批判や企業イメージの低下を招きかねません。

さらに、未払い残業代請求が発生した場合、多額の支払い義務が生じる恐れもあります。こうしたリスクを防ぐには、客観的で透明性のある管理が求められます。適正な労働時間管理の徹底は、法令順守と同時に企業の持続的成長にもつながる重要な取り組みです。

労働時間管理の対象

労働時間の管理対象は、正社員に限らず、契約社員やパート・アルバイトといった非正規雇用労働者も含まれます。裁量労働制やフレックスタイム制を採用している場合でも、制度に応じたルールの下で、適正に労働時間を把握しなければいけません。

また近年は、テレワークや直行直帰といった多様な働き方も広がっており、従来の勤怠管理方法では対応が難しくなっています。勤務形態ごとの特徴に即した記録・集計方法を導入し、公正に労働時間を管理できる体制を整えることが重要です。

企業に求められる労働時間の管理方法

労働時間を適切に管理するには、出退勤の記録を正確にするのはもちろん、管理者の責任の明確化など、段階的かつ網羅的な仕組みが必要です。テクノロジーの導入と併せて、運用ルールを整備することが求められます。

始業・終業時間を正しく確認・記録する

労働時間管理の基本は、従業員の始業・終業時間を客観的に確認し、正確に記録することです。厚生労働省のガイドラインでは、タイムカードやICカードなどの客観的な記録を基礎として、きちんと確認・記録することが原則とされています。

これらの客観的記録がない場合でも、使用者が現認することで始業・終業時刻を確認し、記録することが求められます。記録項目は年月日や始業・終業時刻、休憩時間などです。また、時間外労働や休日労働・深夜労働の時間数なども、明確に区分して記録しなければいけません。

なおテレワークの場合は、メールの送受信記録や業務システムへのアクセス記録、Web会議の参加記録などを活用して、労働時間を把握する必要があります。

自己申告で勤怠管理をする場合の措置を講じる

客観的な記録による労働時間の把握が困難な場合、自己申告制による管理も認められていますが、その際は、適正な申告を担保するための措置を講じる必要があります。まず、自己申告制の対象となる労働者に対して、労働時間の実態を正しく記録・申告するように、十分な説明をしておきましょう。

加えて、実際の労働時間を適正に申告できる環境づくりも重要です。労働時間の適正な申告を阻害する要因がないか定期的に確認し、問題があれば改善を図りましょう。

従業員の自己申告による労働時間と入退場記録、PCの使用時間記録などの客観的な記録との間に著しい乖離がある場合、実態調査を実施し、所要の労働時間の補正を図る必要があります。

※出典:2 労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置 | 厚生労働省

賃金台帳に適切な情報を記載する

労働基準法に基づいて、企業は賃金台帳を作成し、適切な情報を記載することが義務付けられています。賃金台帳には、労働者の氏名や性別・賃金計算期間・労働日数・労働時間数・時間外労働時間数などの賃金額、賃金の一部を控除した場合の控除額などを記載します。

これらの記録は、労働時間記録と連動して正確に管理する必要があり、計算ミスや記載漏れがないよう注意深く作成しなければいけません。

さらに賃金台帳は労働者名簿・出勤簿とともに、労働基準法上の重要帳簿として位置付けられており、原則5年間の保存義務があります。労働基準監督官による立ち入り調査の際には、これらの帳簿の提示が求められるため、常に最新の状態で整備しておくことが大事です。形式的に整備するのではなく、常に正確性を保つ必要があります。

従業員の労働時間を正確に記録・保存する

労働時間の記録は、単に日々の管理にとどまらず、長期間にわたる適切な保存が法的に義務付けられています。労働基準法では労働時間記録を含む労働関係帳簿を、原則5年間保存することが定められており、この期間中は労働基準監督署の調査や、労働者からの開示請求に応じなければいけません。

記録の保存方法については、紙媒体だけでなく、電磁的記録による保存も認められており、データの改ざん防止や消失防止のための適切な管理が求められます。

また、記録の正確性を担保するため、定期的な監査や確認作業も重要です。特に、複数の事業所を有する企業の場合、統一的な記録・保存基準を設けて、本社での一元管理体制を構築する必要があります。

※出典:改正労働基準法等に関するQ&A | 厚生労働省

管理監督者の責任を明確にする

適切な労働時間管理を実現するには、管理監督者の責任を明確にして、その役割を十分に理解してもらうことが大切です。管理監督者は部下の労働時間を日常的に把握し、過重労働の兆候があるならば、すぐに適切な対応を取る責任があります。

具体的には、部下の出退勤状況の確認や時間外労働の事前承認、休暇取得の促進、業務量の適切な調整などが必要です。管理監督者自身は労働時間・休憩・休日の規定に関して労働基準法の適用除外であっても、部下の労働時間管理については、厳格な責任を負う立場であることを認識しなければいけません。

さらに企業は、管理監督者に対する定期的な研修や情報提供を通じて、労働時間管理に関する知識やスキルの向上を支援し、適切な管理体制の維持・強化を図る必要があります。

※出典:労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライ ン|厚生労働省

労働時間等設定改善委員会を設置する

労働時間等設定改善法に基づき、労働時間等の設定の改善を図るため、労働時間等設定改善委員会の設置も推奨されています。同委員会は、労使が協力して労働時間の短縮や、労働条件の改善を図ることを目的としており、労働時間管理の実効性を高める重要な仕組みです。

委員会では、現在の労働時間の実態分析や長時間労働の原因究明、改善策の検討・実施、効果の検証などを実施します。決定事項は労働協約に準じる効力を持つため、労働条件の改善に向けた実効性の高い取り組みが可能です。

※出典:労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン|厚生労働省

労働時間管理には勤怠管理ツールがおすすめ

勤怠管理に紙やExcelを使う場合、入力や集計の手間に加えて、人間の手によるミスや不正確な記録が避けられないといった課題があります。これを解消する方法として一般化しているのが、勤怠管理ツールです。

打刻からシフト情報の管理、残業時間の自動集計まで幅広く対応でき、テレワークなどの多様な働き方にも柔軟に対応できるので、中小企業でも導入が進んでいます。

勤怠管理ツールで利用できる機能

現代の勤怠管理ツールには、労働時間管理を効率化し、正確性を向上させるための多彩な機能が搭載されています。最も基本的な機能は、ICカードやスマートフォン、生体認証などによる客観的な打刻機能です。これにより従業員の出退勤時刻を正確に記録し、不正な打刻を防止できます。

また、自動集計機能により、日次・月次の労働時間や残業時間、休日労働時間などが瞬時に計算され、人的ミスの大幅な削減が可能です。アラート機能では、時間外労働の上限規制に抵触する可能性がある従業員を事前に警告し、過重労働を未然に防ぎます。

加えて、有給休暇の残日数管理や勤務間インターバル制度への対応、シフト管理機能なども標準的に搭載されており、包括的な労働時間管理が可能です。

勤怠管理ツールを導入するメリット

勤怠管理ツールを導入する最大のメリットは、勤怠管理の正確性と効率性の向上です。自動集計により記録ミスや計算の手間が大幅に削減され、管理者の負担を大幅に軽減できます。

また、従業員もスマホやPCから簡単に打刻・申請ができるため、紙やエクセルによる煩雑なやりとりが不要となり、業務全体のスピードも向上するでしょう。データの可視化機能により、部署別や個人別の労働時間の傾向分析が容易になり、業務効率化や人員配置の最適化にも活用できます。

コスト面では、初期投資や月額利用料はかかりますが、業務効率化による人件費削減や法令違反リスクの回避により、中長期的には大きなコスト削減効果が期待できます。

勤怠管理ツールの選び方

勤怠管理ツールは、多くのベンダーが多様な製品をリリースしているので、自社の制度やニーズに合うものを見極めることが重要です。就業規則や勤務形態との相性や機能性・操作性など、導入時に確認すべきポイントを見ていきましょう。

自社の就業規則や勤務形態に対応しやすいか

勤怠管理ツールの選定において重視すべき要素の一つは、自社の就業規則や多様な勤務形態への対応力です。企業によって、固定時間制やフレックスタイム制・変形労働時間制・裁量労働制など、さまざまな勤務形態が採用されており、それぞれに異なる労働時間の計算ロジックが求められます。

また、交代勤務やシフト勤務、テレワークと出社の併用など、複雑な勤務パターンにも柔軟に対応できるかも重要なポイントです。部署や職種によって異なる就業規則が適用される場合もあるため、複数の規則を同時に管理できる必要があります。

必要な機能が網羅されているか

勤怠管理ツールに求められる機能は、企業の規模や業種によって異なるため、自社に必要な機能が網羅されているか、よく確認しておきましょう。基本的な打刻機能や集計機能はもちろん、時間外労働の上限規制対応や勤務間インターバル制度への対応など、法令の順守に必要な機能は必須要件です。

またワークフロー機能により、残業や休暇申請の適切な承認プロセスを構築できるかも重要です。クラウド型ツールでは、モバイル対応やGPS機能による直行直帰の管理機能なども、現代の働き方に対応するために必要な機能として挙げられるでしょう。

操作性・カスタマイズ性に優れているか

どれほど高機能なツールでも、操作が複雑で使いにくければ、現場に浸透しづらいものです。従業員が直感的に操作でき、管理者も柔軟にカスタマイズできるツールを選ぶ必要があります。特に、ITに不慣れな従業員でも、簡単に操作できるシンプルな設計であることが重要です。

また、業種や部署によって異なるニーズに対応できるように、画面レイアウトや承認フローを調整できるツールが望ましいといえます。自社の就業規則や独自の勤務形態に合わせて、柔軟に設定を変更できれば、導入後も長く運用を続けられるでしょう。

セキュリティや安定性に問題はないか

勤怠データには従業員の個人情報や、労働条件に関する機密情報が含まれるため、高度なセキュリティ対策が施されているツールを選択することも大事です。

データの暗号化やアクセス制御、ログ管理などの基本的なセキュリティ機能はもちろん、多要素認証やIPアドレス制限など、高度なセキュリティ機能も重要な評価のポイントです。また、データセンターの物理的なセキュリティや、定期的なセキュリティ監査の実施状況なども確認する必要があります。

システムの安定性については、サーバーの冗長化やバックアップ体制、災害時の事業継続計画などが適切に整備されているかチェックしましょう。

サービスベンダーのサポートは十分か

勤怠管理ツールの導入・運用を成功させるには、サービスベンダーの充実したサポートも不可欠です。導入時には初期設定やデータ移行作業の支援、従業員への操作説明会の実施など、スムーズな導入サポートを受けられるか確認しましょう。

運用開始後も、システムの不具合の対応や操作方法の質問対応、制度変更時の設定変更の支援など、継続的なサポートを受けられるベンダーがおすすめです。マニュアルやFAQだけではなく、電話やチャットによるサポートが充実しているか、事前に調べておきましょう。

勤怠管理ツールを導入・運用する際の注意点

勤怠管理ツールの導入効果を最大化するには、以下の点にも注意が必要です。就業規則や勤務体系を整理しておき、従業員の教育も徹底しましょう。スムーズな運用を実現するため、特に意識すべきポイントを解説します。

就業規則や勤務体系を整理しておく

勤怠管理ツールの導入前に、現在の就業規則や勤務体系を詳細に整理し、必要に応じて見直しをすることが大切です。多くの企業では長年の運用の中で、就業規則と実際の運用に乖離が生じていたり、部署によって異なる慣行が定着していたりするケースが見受けられます。

こうした状況でツールを導入すると、システムが企業の実態に合わず、かえって混乱を招く可能性があります。まずは勤務形態や労働時間の計算方法、時間外労働の取り扱い、有給休暇の管理方法などを体系的に整理しましょう。

その上で、労働基準法などの法令要件との整合性を確認し、必要に応じて就業規則の改定を行う必要があります。複数の事業所を有している場合は、統一的な基準の策定も重要な作業です。

従業員の教育・研修を徹底する

新しいシステムを導入する際には、従業員に対してきちんと研修を実施し、正しく利用できるようにしましょう。特に、従来の紙ベースやExcelでの管理に慣れた従業員にとって、デジタルツールへの移行は大きな変化となるため、丁寧な教育・研修が必要です。

研修には基本的な操作方法の説明はもちろん、新しい労働時間管理の考え方なども含めるとよいでしょう。集合研修や部署別研修・個別指導など、従業員の習熟度や業務特性に応じて、多様な方法を組み合わせることも大切です。

加えて、操作マニュアルの作成や、よくある質問集の整備、ヘルプデスクの設置など、研修後のフォローアップの体制も整備しておきましょう。

従業員のプライバシーに配慮する

勤怠データは個人の行動記録に直結するため、取得範囲や利用目的を明示し、プライバシーへの配慮を徹底する必要があります。

まずは個人情報保護法に基づき、取得する個人情報の利用目的を明確にした上で、従業員に対して事前に十分な説明をしておきましょう。取得したデータの管理方法や保存期間、第三者への提供の有無などについても、透明性を確保しなければいけません。

特にGPS機能やPCの使用ログ、生体認証などの技術を活用する場合、業務時間外の情報は取得しない設定にするなど、プライバシーへの侵害を最小限に抑える工夫が求められます。

労働実態時間の管理なら「Watchy」

現代の企業において、適切な労働時間の管理は法令順守の観点からも、従業員の健康維持と生産性の向上の観点からも、不可欠な経営課題の一つです。

従来の紙やExcelによる管理方法では、多様化する働き方や、厳格化する法的要求への対応が困難になっています。勤怠管理ツールの導入は、これらの課題を包括的に解決し、効率的で正確な労働時間管理を実現できる手段です。

ツールを選定する際には、自社の業務特性への適合性や必要な機能の有無、操作性とカスタマイズ性などを総合的に評価しましょう。導入時には就業規則の整備や従業員教育の徹底、プライバシーへの配慮など、技術面以外の準備も欠かせません。

なお、勤怠管理ツールに役立つサービスの中でも、「Watchy」はPCのログオン・ログオフ監視やスクリーン監視、ソフトウェア監視の機能で、PCの稼働状態から勤務実態の把握や操作履歴からの行動分析が可能です。出退勤の打刻や残業時間の集計はもちろん、多様な勤務形態にも柔軟に対応できる点が特徴です。さらに、リアルタイムで労働時間を把握し、過重労働を未然に防ぐ仕組みを備えています。

必要な機能を選んで柔軟に運用できるので、この機会にぜひ導入をご検討ください。無料トライアル版もご利用いただけます。

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執筆者

Watchy編集部

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Watchyは、株式会社スタメンが運営するクラウドサービスです。企業のIT情報統制の課題やバックオフィスの課題を、情報システム担当者が手薄な状況でも、Watchyが解決。設定・運用の手間を最小化しながら、押さえるべきポイントを確実に押さえた企業統制の実現を支援します。

【株式会社スタメンについて】 東京証券取引所グロース市場上場。Watchy、TUNAGなど、人と組織の課題解決を実現するSaaSを展開。情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)及びプライバシーマークを取得。