退職者による情報の持ち出しは、企業の信用や競争力を大きく損なう深刻なリスクです。実際の被害事例も多く、法的責任や損害賠償のリスクも伴います。情報持ち出しのリスクの実態と、企業として取る必要のある対策、導入すべきツールについて解説します。
目次
退職者による情報の持ち出しがもたらすリスク
退職者による情報の持ち出しは、企業にとって見えない脅威として存在しています。一見すると従業員の退職は日常的な出来事に思えますが、以下のセキュリティリスクが潜んでいるので、きちんとした対策が必要です。
機密データの流出による信用の失墜
退職者が顧客情報や取引先情報を無断で持ち出した場合、流出先での拡散や悪用によって信用問題に直結します。取引先からの信頼を損ねるだけでなく、社会的な非難や報道が加わることで、企業のブランドイメージや、市場での地位にも深刻な打撃を与える恐れもあります。
一度失った信用は回復に長い時間と多大なコストを要するため、企業としては「起きてからの対応」ではなく「起きない仕組み」をつくることが大切です。
競合企業への情報流出による業績の悪化
企業秘密や営業戦略、製品開発に関する情報が競合他社に流れた場合、その情報を基に市場での優位性が崩れるリスクがあります。
特に、技術的なノウハウや価格戦略などの情報は、競合企業にとって極めて価値が高く、それをもとに模倣や価格競争を仕掛けられると、収益の低下を招きます。情報流出は一時的な被害にとどまらず、中長期的な業績悪化や顧客離れの引き金となるため、事前の対策が不可欠です。
法的責任の発生と損害賠償のリスク
退職者による情報の持ち出しが発覚した場合、企業は加害者の立場になる可能性があります。被害を受けた顧客や取引先から損害賠償請求を受けたり、監督官庁から是正命令や制裁を受けたりするリスクがあります。
また、社内に明確な情報管理ルールが存在していなかった場合、「過失」として企業が法的責任を問われるケースもあるでしょう。法的側面での影響は、単なる社員の不正行為にとどまらず、経営上の大きな障害にも発展しかねません。
退職者による情報持ち出しの現状
近年、退職者による情報の持ち出しは増加傾向にあり、多くの企業が実際に被害を受けています。
持ち出しの手口も多様化しており、物理的な方法だけでなく、デジタルデータの不正送信やクラウド経由での流出など、さまざまな方法が問題となっている状況です。具体的な事例を確認しておきましょう。
退職者による情報の持ち出し事例
実際の社員による情報の持ち出し事例は、その手口と影響の大きさから、学ぶべき点が多くあります。
例えば、ベネッセコーポレーションでは、2014年に業務委託先の元システムエンジニアが、約3,500万件の顧客情報を持ち出し、名簿業者に売却する事件が発生しました。この事件により同社は数百億円の特別損失を計上し、情報漏洩対策に多額の資金を投じる事態になっています。
また東芝も2012年、フラッシュメモリの製造技術情報を、韓国企業に流出させたとして元社員を告訴し、裁判所は不正競争防止法違反で有罪判決を下しました。
さらに、新日鉄住金(現日本製鉄)でも、元社員が韓国ポスコに営業秘密を漏洩したとして、訴訟に発展しています。同事件は2019年、両社間で和解金の支払いにより合意に至りました。
※出典:事故の概要|お客様本部について|ベネッセお客様本部
データ漏洩、二審も実刑判決 東芝提携先の元技術者 - 日本経済新聞
ポスコ、新日鉄との特許争いに終止符 | 知的財産ニュース - 知的財産に関する情報 - 韓国 - アジア - 国・地域別に見る - ジェトロ
退職者の情報の持ち出しを防ぐには?
上記事例のような情報の持ち出しを防ぐには、組織全体で多面的な対策を講じる必要があります。単なるルール作りだけではなく、現場で確実に運用される仕組みや、社員一人一人の意識改革が重要です。実効性の高い対策と、そのポイントを確認しておきましょう。
社員のセキュリティ教育の徹底
情報管理のリスクを理解していない社員は、たとえ悪意がなくても、軽率な行動をとる可能性があります。そのため情報セキュリティに関する教育は、定期的かつ実務に即した形で実施することが大切です。
例えば、「顧客情報を自分の端末に保存しない」「個人所有のUSBを業務に使用しない」など、実際の行動に落とし込んだルールを学ばせる必要があります。教育は一度で終えるものではなく、年度ごとや人事異動時など、定期的に見直しと実施を繰り返しましょう。
秘密保持契約の締結
社員の退職前に秘密保持契約(NDA)を取り交わすことで、情報の持ち出しや漏洩に対する法的抑止力を働かせることも大切です。
特に役職者や技術職・営業職など、重要な情報にアクセスできる立場にあった社員については、退職後も一定期間、競合企業での勤務を制限する条項を盛り込むことも有効です。単に契約を締結するのみならず、内容をきちんと説明し、社員が理解・納得して署名してもらう必要があります。
システムへのアクセス制限
退職者による情報の不正利用を防ぐには、退職が決まった時点で、速やかにアクセス権限を見直すことが重要です。アカウントの削除や外部記録媒体の使用制限はもちろん、共有フォルダへのアクセス遮断など、段階的かつ迅速な対応が求められます。
特に、クラウドシステムやチャットツール・プロジェクト管理ツールなど、リモートで利用できるツールに対する制限は忘れられがちです。確実に退職プロセスに組み込んでおきましょう。
またシングルサインオン(SSO)を導入すれば、複数のサービスへのアクセス権を一括管理できます。退職者によるアクセスを遮断するのも、迅速・確実に実施できるのでおすすめです。
情報の持ち出しができない体制の構築
個人の善意に頼らず、技術的に情報の持ち出しを困難にする仕組みを整えることも、情報漏洩を防ぐ点で重要なポイントです。社内ネットワークからのファイル転送を制限したり、USBポートを制御したりするツールを導入することで、不正な操作を未然に防げます。
さらに、持ち出しの痕跡を残すログ管理を徹底することで、万が一の場合の対応に備えるのも大切です。リアルタイムで不審な動きを把握し、迅速に対応できるようにしましょう。技術的対策と運用ルールを組み合わせることで、より強固なセキュリティ体制を築けます。
退職者による情報持ち出しの防止に寄与するツール
情報の持ち出しを確実に防止するには、人的対応だけでは限界があるため、専用ツールの導入が有効です。アクセスログの監視ツールやIT資産管理ツール、DLP(Data Loss Prevention)システムなどの導入を検討しましょう。
これらは社員がどの情報にアクセスし、どういった操作をしたか記録する機能があり、不審な動きがあれば、即時にアラートを出せるツールもあります。また、退職者のアクセス権限を自動で無効化する仕組みを持つ、ID管理ツールなども有効です。
ツールの導入は抑止力としても働き、退職を迎える社員への警告的な効果も生み出します。ただし、単に導入するだけではなく、運用ルールの整備が不可欠です。誰がどの範囲でツールを使用し、どのようにアラートを管理するのかといった、具体的な方針を決めておきましょう。
情報の持ち出しを防ぐ仕組みをつくる
退職者による情報の持ち出しは、企業の信用や業績・法的立場にまで影響を及ぼす、重大なリスクです。こうした事態を防ぐにはセキュリティ教育や、秘密保持契約・アクセス制限・技術的対策などを組み合わせた、多層的な取り組みが求められます。
さらに、定期的な情報管理体制の見直しにより、常に最新のリスクに対応できる体制を維持することも大事です。人的な対応だけでは難しいため、専用のセキュリティツールを活用しつつ、安全に情報を運用できる仕組みをつくりましょう。
なお、情報の持ち出しを防ぐツールとして、さまざまな製品・サービスがある中でも、ログ管理を徹底できる「Watchy(ウォッチー)」の導入がおすすめです。
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Watchy編集部
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