IT資産管理の基準は、組織のIT資産をライフサイクル全体で、適切かつ効率的に管理するための指針です。国際標準や国内ガイドラインを参考にしつつ、自社の現状や目的に合わせて社内ルールを整備しましょう。代表的な国際標準やフレームワークを紹介します。

IT資産管理の基準とは?

IT資産管理の基準とは、企業が保有するハードウェア・ソフトウェア・ライセンス・クラウドなどの資産を、計画・取得・運用・廃棄といったライフサイクル全体で、適切に管理するための方針や枠組みです。

基準が整備されていない状態では、重複投資や不正利用、セキュリティリスクの増加など、組織全体にさまざまな問題が波及する可能性があります。

こうした背景から、国際的なフレームワークや国内団体による管理基準が整備されてきました。企業にとっても、これらを参考に自社の実情に合わせたルールづくりが求められます。

IT資産管理の基準が必要とされる背景

IT資産の管理が注目されるようになった背景には、管理すべきIT資産が多様化し、従来の管理方法では、対応しきれなくなったことがあります。加えて、クラウドサービスの普及やサブスクリプション型の契約形態の浸透により、管理の対象とすべき範囲も拡大しました。

こうした状況では、IT資産の全体像を正確に把握するのが難しくなり、未使用のライセンスが放置されたり、セキュリティホールが発生したりするリスクがあります。IT資産管理の基準は、こうした問題を未然に防ぎ、適切な予算配分や効率的な運用を支える上で、欠かせない仕組みです。

IT資産の評価基準の必要性

IT資産の評価基準は、資産の適正な価値の把握や利用状況の視覚化、経営判断の迅速化などにつながります。評価基準が曖昧なままだと、不要な資産の維持や重複購入などが発生し、コストの増大やリスクの拡大を招きます。

また、ライセンス違反や管理不備による法的トラブルを回避するためにも、資産ごとに明確な評価基準を設け、定期的な棚卸しや見直しが必要です。資産評価の基準を整備することで、不要な支出を減らせるのみならず、企業の信頼性の向上にも寄与します。

IT資産管理に関する国際標準やフレームワーク

IT資産管理を体系的に進めるには、国際的に認知された標準や、フレームワークを参考にするのが有効です。これらは自社でルールを策定する際の基盤となり、外部監査への対応やコンプライアンス強化にも役立ちます。代表的な国際標準やフレームワークを見ていきましょう。

ISO/IEC 19770シリーズ

ISO/IEC 19770シリーズは、ソフトウェア資産管理(SAM)に関する国際標準規格です。単なる在庫管理ではなく、企業活動に必要なソフトウェアの最適な利用を目的として定められており、ソフトウェアの検出や識別、管理プロセスの効率化に活用できます。

ソフトウェアの導入から運用、ライセンスの管理・廃棄に至るまで、一貫して管理する仕組みをつくる際に、参考にするとよいでしょう。IT資産のライフサイクル全体において、管理プロセスを標準化することで、IT資産の運用を効率化できます。

ITIL(Information Technology Infrastructure Library)

ITILはITサービスマネジメント(ITSM)における、ベストプラクティスを体系化したガイドブックです。単なる理論ではなく、実際のビジネス環境で効果が検証された手法の集大成として、世界的に評価されています。

IT部門だけでなく、経営層から現場まで、組織全体でITサービスの品質向上に取り組むための、共通認識として活用できるのが特徴です。IT資産管理においても、単なる物品管理ではなく、ビジネス価値の創出につながる、戦略的な活動の基盤として活用できます。

COBIT(Control Objectives for Information and Related Technology)

COBITは、ITガバナンスとITマネジメントの両立を支援するフレームワークです。企業の経営層とIT部門の橋渡しを意識した構成となっており、ビジネス戦略とITの整合性を高める上で有用です。

具体的には、組織内で活用されるITリソースやサービスの管理目標を明示し、それを実現するための評価指標や、実践的なコントロール項目が整理されています。ビジネス目標とIT目標を関連付け、企業価値の向上に寄与するIT資産管理の仕組みの構築に役立ちます。

代表的なIT資産管理の基準・ガイドライン

次に、IT資産管理に関する国際標準や、業界団体が示すガイドラインを紹介します。国内外で広く参照されている基準には、法令対応や内部統制の強化につながる要素も、多く含まれています。社内での運用実態に合わせて、うまくカスタマイズしつつ活用するとよいでしょう。

IT資産管理評価認定協会「IT資産管理基準」

IT資産管理基準は、IT資産の管理領域を分類し、それぞれに管理目標・要件・項目を設定しています。ハードウェアやソフトウェアだけでなく、クラウドサービスやネットワーク機器など幅広い資産を対象とし、企業が統制の取れた資産管理をするための基準を提供しています。

業種や規模を問わず導入可能な構成となっており、資産の登録・台帳整備、運用管理、監査対応までを視野に入れた内容です。また、定期的な評価を通じた改善サイクルの導入も推奨しており、IT資産の可視化と継続的な改善を図れます。

IT資産管理基準 Ver.1.0

経済産業省「情報セキュリティ管理基準(ISMS)」

経済産業省による情報セキュリティ管理基準(ISMS)は、IT資産の管理を含めた情報資産全体の保護と、リスク管理に関するガイドラインです。

情報セキュリティマネジメントの枠組みの一部として、IT資産の取り扱いや管理方針が示されており、機密性・完全性・可用性を守るための管理措置が重視されています。

ISMSを導入することで、資産ごとのリスク分析や適切な管理策の選定が可能となり、IT資産の管理体制を情報セキュリティの視点から強化できます。特に、外部委託やクラウド利用が進む現代において、セキュリティ対策と資産管理の両立を求める企業にとって、有効な指針となるでしょう。

情報セキュリティ管理基準(令和7年改正版)|経済産業省

IT資産管理評価認定協会(SAMAC)「ソフトウェア資産管理基準」

SAMACによるソフトウェア資産管理基準は、ソフトウェアの調達・導入・運用・廃棄までの、一連の管理プロセスを標準化したものです。ライセンス管理やコンプライアンス対応、棚卸し手順など、実務に即した具体的な指針が盛り込まれています。

特に、複数部門でライセンスを共用している企業では、無断使用や重複購入を防ぐための統制手段として有効です。ベンダーによる監査対応や、予算見直しのための根拠データを整備する際にも、同基準を踏まえた体制の整備が有効に機能するでしょう。

ソフトウェア資産管理基準 Ver.4.1|一般社団法人 ソフトウェア資産管理評価認定協会(SAMAC)

IT資産管理基準を作成するポイント

企業が独自にIT資産管理基準を整備する場合には、以下のポイントを意識することが重要です。外部のフレームワークを参考にしつつも、自社の実情に適した管理体制を設計する必要があります。

現状分析と目的設定

IT資産管理の基準を整備する際には、まず自社のIT資産の管理状況を客観的に分析しましょう。どのようなIT資産があり、どのように運用されているのか可視化することで、課題や改善の余地を明らかにする必要があります。

現状を正しく把握することで、未使用資産の放置や、部門ごとの運用ルールのばらつきといった、実務上の課題が確認できるでしょう。その上で、何を目的に基準を策定するのか、明確にすることが大切です。

管理対象範囲の決定

IT資産管理の目的を明確にしたら、具体的に管理の対象とする資産を決めましょう。ハードウェアやソフトウェアに加え、クラウドサービスやモバイル端末・ネットワーク機器など、企業によって管理すべき対象はさまざまです。

全てを網羅的に管理するのが理想ではあるものの、実務上は優先度に応じた対応が求められます。例えば、セキュリティリスクが高い機器や、ライセンス契約に制約があるソフトウェアなどは、優先的に管理体制を整備する対象となるでしょう。

管理ルールやガイドラインの設計

管理すべきIT資産の範囲や重要度を設定したら、具体的な管理ルールやガイドラインを設計します。IT部門や資産管理者などの責任者を明確にし、管理項目や運用ルール、管理台帳の作成・運用方法などを定めましょう。

具体的な運用ルールの設定では、資産のライフサイクル全体をカバーする手順を定義します。新規資産の導入から廃棄までの各段階において、誰がどのような手続きをすべきか、明確にしておきましょう。

また、これらの情報を一元管理するため、資産管理台帳の作成・整備も必要です。組織の規模や予算に応じて、スプレッドシートなどのシンプルな方法から始めるのも可能ですが、近年は専用の資産管理ツールを導入するのが一般的です。

既存のガイドラインを参考にIT資産管理基準を設定する

IT資産の管理体制を強化する上で、既存の国際標準やガイドラインを生かすことは、非常に有効です。

ただし、そのまま取り入れるだけでは、社内に定着しない可能性もあるので、自社の環境に合わせてカスタマイズすることも大事です。まずは、自社の課題や管理すべきIT資産を明確にして、運用実態に合った基準を作成しましょう。

IT資産管理は一度体制を構築して終わるものではなく、継続的に改善していくプロセスです。定期的な見直しと更新をすることで、変化するビジネス環境やIT技術の進化に対し、柔軟に対応できる体制を維持する必要があります。

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執筆者

Watchy編集部

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【株式会社スタメンについて】 東京証券取引所グロース市場上場。Watchy、TUNAGなど、人と組織の課題解決を実現するSaaSを展開。情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)及びプライバシーマークを取得。