テレワークは、柔軟な働き方を実現する手段として注目されていますが、中小企業では導入されていないケースも目立ちます。中小企業におけるテレワークの導入状況や課題を整理し、有効な対策を紹介します。自社に合った導入方法を考えてみましょう。
目次
中小企業のテレワークの導入状況
テレワークはコロナ禍を機に急速に普及しましたが、中小企業では導入が遅れているといった意見もあります。まずは大企業と中小企業の導入率や、テレワークが中小企業に定着しづらい理由などを確認しておきましょう。
大企業と中小企業の導入率の差
大企業と中小企業の間には、テレワークの導入率に差があります。2023年の総務省による「通信利用動向調査」を見ると、従業員数が300人未満(100~299人)の企業において、テレワークを導入しているところの割合は44.0%です。
一方、従業員数が300人以上の企業で、テレワークを導入しているところの割合は64.1%となっており、約20%の開きがあることが分かります。特に、従業員数が2,000人以上の大企業においては、90%の企業がテレワークを導入しているようです。
コロナ禍以前においては、大企業と中小企業のテレワーク導入率には現状よりも大きな開きがありましたが、近年は徐々にその差は縮まっています。しかし、依然として従業員の多くがテレワークを利用している企業の割合は、大企業の方が高い傾向にあります。
※出典:通信利用動向調査 令和5年通信利用動向調査 企業編 令和5年企業編 統計表セット(全38表) | ファイル | 統計データを探す | 政府統計の総合窓口
中小企業でテレワークの導入が進まない理由
大企業に比べて、中小企業のテレワークの導入が進まない理由としては、IT環境の未整備や人材のITリテラシー不足・業務の特性などが挙げられます。特に現場作業が中心の企業や、対面での対応が求められる業種では、導入が難しい状況にあります。
また、経営層の理解が不十分なことも要因の一つです。テレワークの導入には一定の初期投資が必要なため、短期的なコストを懸念して導入を見送るケースもみられます。
さらに総務省の委託事業によるテレワークに関する調査によると、テレワークを実施していない企業の中には、経営層が実施について全く考えたことのないケースも少なくありません。それに加えて、労務管理や評価制度の整備が遅れており、適切なマネジメントができるか不安を感じる企業が多いのも実態です。
※出典:【令和5年度総務省事業】テレワークの普及定着に向けた課題と対応策に関する調査研究結果報告書|株式会社テレワークマネジメント
中小企業のテレワークにおける課題
中小企業がテレワークを実施する際には、さまざまな課題が生じます。上記のように、IT環境の整備が難しいことをはじめ、従業員間のコミュニケーションの難しさや、業務の特性がテレワークにそぐわない場合などが挙げられます。中小企業が抱えがちなテレワークの課題を見ていきましょう。
IT環境の整備不足
中小企業におけるテレワーク導入の障壁の一つが、IT環境の整備不足です。業務のデジタル化やシステム化が十分に進んでいない企業も多く、紙ベースの作業に依存しているケースは珍しくありません。
テレワークを効果的に実施するには、社内のペーパーレス化やクラウドサービスの導入などが不可欠ですが、一定の投資と従業員のスキルアップが求められます。
また、従業員の自宅のインターネット環境や作業スペースの確保なども課題になりがちです。企業側がどこまでサポートするかという点において、運用体制の構築やルールづくりに時間を要している企業も多くあります。
コミュニケーションの難しさ
テレワークにおいて、対面でのコミュニケーションの欠如は大きな課題の一つです。とりわけ中小企業では、日常的な対話や即時の情報共有が、業務の遂行に重要な役割を果たしていることが多くあります。
従業員間のコミュニケーションの難しさから、テレワークの導入に二の足を踏んでいる企業が少なくありません。たとえオンラインツールを使用しても、言葉のニュアンスや表情が伝わりにくく、誤解が生じやすいといった問題もあります。
対応が難しい業務がある
中小企業の多くは、製造業やサービス業・小売業など、物理的な作業や対面でのサービス提供が必要な業種に属しています。これらの業種では、テレワークで対応できる業務が限られており、全面的な導入は困難です。
例えば、工場での製造作業や店舗での接客・現場での保守・メンテナンス作業などは、テレワークでは代替が難しい業務といえるでしょう。また、機密情報を扱う業務や、特殊な機器や設備を使用する業務なども、セキュリティの観点からテレワークの導入が難しい場合があります。
労務管理や業務評価が困難
テレワーク環境下での労務管理や業務評価も、中小企業にとって大きな課題です。従来の出退勤の管理や労働時間の把握が難しくなり、適切な労務管理には、新たなシステムやルールの導入が必要です。
また、業務の進捗状況や成果の評価に関しても、対面での直接的な管理・監督が難しいため、より客観的で明確な評価基準の設定が求められます。
加えて、従業員のモチベーションの維持やメンタルヘルスなど、直接的なコミュニケーションが減少する中において、従業員のケアも重要な課題となっています。
経営層が必要性を感じていない
上記のように、中小企業においてテレワーク導入が進まない要因の一つに、経営層がその必要性を十分に認識していないことが挙げられます。多くの中小企業経営者は、従来の対面型の業務スタイルに慣れており、テレワークによる生産性向上や経営メリットを実感できていないのが実態です。
また、テレワーク導入に伴う初期投資や、システム変更のコストを懸念し、導入をためらう経営者も少なくありません。テレワークが企業文化や従業員の帰属意識に与える影響を危惧し、消極的な姿勢を取るケースもあります。
セキュリティ上の問題がある
情報セキュリティの確保も、テレワークの導入におけるもう一つの重要な課題です。従業員が自宅やオフィス以外の環境で業務を進めることで、機密情報や顧客データの漏洩リスクが高まります。特に中小企業では、十分なIT投資やセキュリティ対策がされていないケースが多く、このリスクはより深刻といえるでしょう。
テレワークの導入に当たっては、従業員のセキュリティ意識の向上や、適切なガイドラインの策定が必要です。セキュリティ対策には、専門知識と追加のコストが必要となるため、これが中小企業にとって障壁となる場合もあります。
テレワークの課題解決に必要な施策
中小企業がテレワークの課題を克服し、効果的に導入するためには、さまざまな施策が必要です。多くの企業が実践している施策について、代表的なものを確認しておきましょう。
ICTツールの導入・活用
テレワークの成功には、適切なICTツールの導入・運用が不可欠です。クラウドベースの業務管理システムやコミュニケーションツールの導入により、場所を問わず効率的な業務運営を実現できます。
例えば、Google WorkspaceやMicrosoft 365などのサービスを活用することで、文書の共同編集やファイル共有が容易になります。また、SlackやMicrosoft Teamsなどのチャットツールを導入することで、リアルタイムのコミュニケーションや情報共有が可能です。
さらに業務の進捗状況を可視化するには、プロジェクト管理ツールやタスク管理ツールの活用がおすすめです。従業員の業務状況を把握し、適切な人事評価をする上でも役立ちます。
社内体制の整備
テレワークを効果的に実施するには、社内体制の整備が欠かせません。まずは、テレワークに関する明確な規定やガイドラインを策定しましょう。テレワークが可能な業務範囲や勤務時間の管理方法、セキュリティポリシーなどを決める必要があります。
また、管理職や従業員向けのテレワーク研修を実施し、新しい働き方に適応するためのスキルやマインドセットの育成も大事です。特に、リモートでのチームマネジメントやコミュニケーションスキルの向上は、テレワークの成功に寄与します。
それに加えて、定期的なオンラインミーティングや、対面とリモートを組み合わせた働き方の導入など、コミュニケーションを促進する仕組みづくりも重要です。
補助金や助成金の利用も検討する
テレワークを導入する際の財政的負担を軽減するため、政府や地方自治体が提供する補助金や助成金の活用を検討してみましょう。例えば、厚生労働省の「人材確保等支援助成金(テレワークコース)」や、経済産業省の「IT導入補助金」などがあります。
これらの制度を利用することで、テレワークの導入に必要な機器やシステムの購入費用、コンサルティング費用などの一部を、補助してもらえる可能性があります。
また、地方自治体独自の支援制度もあるので、地域の商工会議所や都道府県等中小企業支援センターなどに相談し、利用できる支援策を探るのも有効です。補助金・助成金の制度を活用することで、初期投資の負担を軽減し、テレワーク導入のハードルを下げられます。
※出典:人材確保等支援助成金|厚生労働省
まずは部分的な導入を検討しよう
中小企業によるテレワークの導入は多くの課題を伴いますが、部分的な導入から始めることで、リスクを回避しつつ効果的に定着を図れます。
まずは運用体制とルールを整備した上で、必要なICTツールを選定・導入しましょう。クラウドベースのシステムやコミュニケーションツールならば、初期投資を抑えつつ、すぐに利用を始められます。適宜課題を解消しつつ、無理のない範囲で導入を進めることで、自社に最適な働き方を確立しましょう。

Watchy編集部
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