近年、働き方改革の影響を受け、多くの企業が残業削減に取り組んでいます。しかし、目に見える効果を上げることは簡単ではありません。社員の残業が減らない原因を徹底的に分析し、自社に適した対策を講じることが重要です。他社の成功事例を参考にしながら、自社に合った残業削減の方法を見つけてみましょう。
目次
社員の残業の削減は難しい?
残業削減は多くの企業にとって重要な課題ですが、単なる制度の導入だけでは、十分な成果を得るのは難しいのが現状です。まずは、企業の残業削減の実態について、全体の傾向を押さえておきましょう。
企業の残業(時間外労働)削減の実態
政府の推進する働き方改革の影響により、ここ数年は残業時間の削減に取り組む企業が増えています。例えば、パーソルキャリア株式会社の調査によると、対象となった企業の約7割が残業削減対策を実施していると回答しており、業界としては運輸・物流業が多いようです。
ただし、社員個人の感覚としては、残業時間が「減った」と実感しているのは、全体の約18.7%にとどまっているのが現状です。
一方で、残業削減の必要性は感じているものの、何の対策もしていない企業も多くあります。2023年に株式会社kubell(旧Chatwork株式会社)が、中小企業の経営者に対して実施した意識調査を確認してみましょう。
同調査によると、医療業界に限定されてはいるものの、経営者の半数以上が社員の残業の実態を知りつつも、特に対策をしていないと回答しています。
調査によって結果にばらつきはあるものの、対策がまだまだ不十分なところや、経営陣と現場の意識のズレのある企業は多いようです。
働き方改革に失敗している企業も多い
多くの企業が残業削減に取り組む理由として、上記のように働き方改革を挙げています。しかし、残業時間の削減を含め、働き方改革に失敗してしまう企業も少なくありません。これは多くの場合、制度設計の不備や現場での実行力不足が影響しています。
例えば、残業時間の短縮に取り組む企業の中には、単に「1日の労働時間を1時間短くする」だけの施策にとどまり、効率化や業務内容の見直しを行わずに導入してしまうケースがあります。このような場合、社員の業務負担が変わらないどころか、むしろ締め切りを守るために業務が圧迫され、生産性が低下する結果になりかねません。
また、制度導入時に現場への十分な説明やサポートを怠った場合、社員の理解不足や不満が高まり、「なぜこのような制度が必要なのか」「自分たちの業務にどのような影響があるのか」が共有されないまま進められることになります。結果として、社員が新しい制度に反発し、かえって職場の雰囲気やモチベーションが低下してしまうこともあるのです。
闇雲に残業時間の削減を決めるのではなく、社員の残業時間が減らない原因を調査・分析するとともに、制度の設計段階から現場の声を取り入れることが大切です。
社員の残業が減らない原因
社員の残業が減らない原因は企業によって異なりますが、ほとんどの場合、以下の点に集約されます。代表的な原因を確認しておきましょう。
業務量の過多や偏り
なかなか社員の残業が減らない原因として、そもそも業務量が多過ぎたり、一部の社員に過度な負担が掛かっていたりするケースが多くあります。特に成長著しい企業にありがちで、特定の社員が複数の分野にまたがる仕事を抱えており、長時間労働が慢性化している場合が珍しくありません。
また、特定のスキルや経験を持つ社員に業務が集中し、他の社員が十分なサポートができないケースもあります。
定時での退勤がしにくい環境
定時での退社がしにくい空気が社内に広まっており、社員が帰宅したくてもできない企業も、決して珍しくないのが実態です。上司や同僚が遅くまで働いていると、定時での帰宅に対して、心理的な負担を感じる社員が多くなります。
また、会議や連絡事項が終業時間の間近に設定されるなど、計画性のない業務運営により、残業が発生している場合もあります。上層部が率先して定時退勤を推奨し、業務スケジュールの見直しにより、社員が定時で帰宅できる環境を整えましょう。
業務内容のミスマッチ
業務内容と社員の適性が合っていない場合、仕事をこなすのに時間がかかり、結果的に残業が増えることがあります。不得意分野の仕事に集中している社員は、効率的に成果を上げるのは難しいでしょう。結果的に、時間外労働に追われるケースが多くなります。
こういった問題を防ぐには、定期的なスキル評価や社員との面談などを通じて、適性に合った業務を割り当てる仕組みが必要です。
社員の残業を減らすメリット
残業時間を減らすことは、社員にとって多くのメリットがあるだけではなく、企業にも以下のようなメリットがあります。
- 社員の健康とパフォーマンスの向上
社員が定時で帰宅できるようになれば生活リズムを整えやすくなり、仕事のパフォーマンスも高まります。
- 離職率の低下と採用コストの削減
働きやすい環境が整うことで、社員の定着率が向上し、採用や育成にかかるコストを削減できます。長期的に見れば市場での競争力の強化も期待できます。
- 職場の士気やチームワークの向上
適切な労働環境が整うと、職場全体の雰囲気が良くなり、チーム間の協力体制が強化されます。その結果、創造的なアイデアが生まれやすくなるでしょう。
- 人件費の削減
残業時間が減ることで、人件費の削減につながります。特に、時間外手当や割増賃金の支払いが抑えられる点は大きなメリットと言えるでしょう。
以上のように、社員の残業削減は企業に多大なメリットをもたらし、デメリットがほとんどない取り組みです。適切な施策を通じて、労働環境の改善と業績向上を両立させましょう。
社員の残業を減らすための取り組み
社員の残業を削減するには、以下のように業務内容の見直しやタイムマネジメントの徹底、人事評価制度の刷新といった施策が有効です。ノー残業デーの導入を検討するのもよいでしょう。それぞれ重要なポイントを解説します。
業務内容の見直し
社員の残業時間を削減するには、定時で所定の業務を終わらせる体制が必要であり、そのためには徹底した業務効率化が求められます。まずは、現状の社員のスケジュールやタスクを見直し、無駄の削減を図りましょう。
必ずしも開かなくてもよい会議や業務報告など、社員が余計な時間を取られている部分を見つけ出し、積極的に削減することが大切です。
また、業務プロセスの中で冗長になっている部分や、複数の担当者間で重複している作業がないかも、確認しましょう。無駄な時間を削減し、社員が本来の業務に集中できる環境を整えることが重要です。
タイムマネジメントの徹底
社員のタイムマネジメントを徹底する仕組みづくりも、残業削減には重要です。企業が社員の労働時間を正確に把握していない場合、知らないうちに過剰な残業が発生することがあります。特にテレワークやリモートワークを導入している企業では、勤務時間の実態が不透明になりやすいです。
オンラインタイムカードや勤怠管理システムを導入し、各社員の勤務時間を正確に記録・管理することで、働きすぎを未然に防ぐことができます。また、定期的にチームでスケジュールを共有し、進捗状況を把握することで、無理のない計画を立てやすくなります。
さらに、リーダーや管理者が社員の働き方を把握し、タスクの優先順位を明確にすることで、過剰な負担がかからない環境を整備することが重要です。
人事評価制度の刷新
残業削減のためには、成果を重視した人事評価制度の導入も効果的です。時間ではなく、仕事の成果にフォーカスすることで、社員が効率的に働く意識を持つようになります。
また、チーム全体での達成度を評価する仕組みも取り入れることで、社員同士の協力体制を強化し、無駄な残業を減らす取り組みもおすすめです。
ただし、職種によっては成果を測りにくい場合もあるでしょう。目標達成度や改善活動の評価を取り入れるなど、仕事内容に応じて、柔軟な評価基準を取り入れる必要もあります。
ノー残業デーを導入してみる
特定の曜日をノー残業デーとして設定することで、社員が定時で退勤する習慣をつくるのもおすすめです。特に、上記のように残業がしにくい空気のある企業にとって、早く帰りやすい雰囲気づくりに役立ちます。
ノー残業デーは残業の削減だけでなく、社員のワークライフバランスを見直すきっかけにもなるでしょう。導入にあたっては、上司やリーダーが率先して取り組むことが大事です。社員もその姿勢に従いやすくなり、制度の定着を図れます。
残業の削減に成功した事例
あるファミリーレストランを運営する企業では、時期や天候・周辺地域でのイベントなどにより、スタッフの労働時間が頻繁に変わるのが悩みでした。残業も慢性化していましたが、忙しいときでも長時間の労働を避けるため、パート・アルバイトの能力を向上させる仕組みを取り入れています。
従来、正社員にしかできなかった仕事を、パート・アルバイトでも可能にしたほか、スキルの習熟度に応じて昇給する制度も導入しました。その結果、スタッフの能力向上意欲が高まり、残業の削減と現場の生産性アップの両立に成功しています。
パート・アルバイトからの業務改善の提案も積極的に受け入れており、提案のあった店舗で実践し、有効性を確認できたら、正社員が本部に報告する仕組みになっているようです。これにより作業がスムーズに進められるようになり、さらなる労働時間の削減に寄与しています。
※出典:時間外労働削減の好事例集|厚生労働省受託事業 中小企業における長時間労働見直し支援事業検討委員会
社員の残業削減で働き方改革を推進
社員の残業削減は、働き方改革を成功させるための重要な要素の一つです。多くの企業が削減を始めていますが、現場との認識の違いから、うまく行っていないケースも珍しくありません。まずは、残業が発生している原因を正確に把握するところから始めましょう。
業務内容の見直しやタイムマネジメントの徹底、人事評価制度の刷新など、さまざまな対策が考えられます。他社の事例も参考にしつつ、環境や社員のニーズに合ったやり方を検討しましょう。

Watchy編集部
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