情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)の認証を維持・向上させるために、欠かせないのが内部監査です。この記事では、ISMS内部監査の基礎知識から具体的な進め方、必要書類、成功のポイントまでを体系的に解説します。
ISMS内部監査とは何か?
ISMS内部監査は、組織が構築した情報セキュリティの仕組みが、規格要求事項や自社ルールに沿って運用されているかを確認する活動です。
外部認証を受けるためだけではなく、日常的なリスク管理や組織全体のセキュリティ意識向上にも役立ちます。まずは、ISMSの基本や内部監査の目的、外部監査との違いを整理しておきましょう。
ISMSの概要
ISMSとは「Information Security Management System」の略称で、企業や組織が情報資産を保護するために整備するマネジメントシステムを指します。
「ISO/IEC 27001」の国際規格に基づいて構築され、リスクアセスメントによる脅威の特定から、その対策の実施・改善までを、一連のマネジメントサイクルとして継続的に運営します。単に技術的なセキュリティ対策を講じるのではなく、組織の運営全体にセキュリティの考え方を組み込む点が特徴です。
ISMS内部監査の目的と役割
内部監査の最大の目的は、ISMSが規格の要求事項を満たしているか、組織の方針に沿って実施されているかを確認することです。同時に、運用ルールが現場に定着しているか、実務の中で形骸化していないかをチェックする役割も担います。
問題点を早期に発見できれば、重大なインシデントや外部監査での不適合を防止できます。さらに改善の提案を通じて、業務効率の向上や社員の意識改革にもつながるため、単なる確認作業ではなく、組織の成長を支える重要なプロセスです。
経営層に対する報告資料としても重要性が高く、情報セキュリティの信頼性を社内外に示す上でも、欠かせない取り組みの一つです。
外部監査との違い
外部監査は認証機関をはじめ、第三者による公式な審査であるのに対し、内部監査はあくまで組織内部で自発的に実施する確認活動です。外部監査では規格適合性を客観的に審査され、認証の取得や更新に直結します。一方、内部監査はそれに先立ち、不備を洗い出して改善するための準備段階といえます。
また、外部監査は一時点での評価であるのに対し、内部監査は定期的かつ柔軟に実施できるため、日常的な運用を支える実効性の高い仕組みです。両者は性格が異なるものの、相互に補完することで、より堅牢なセキュリティマネジメントが可能となります。
ISMSの内部監査の進め方
内部監査を効果的に実施するには、準備から記録までのプロセスを、体系的に進めることが重要です。監査員の役割や計画立案、チェックリスト作成から現場での確認、最終的な報告書作成に至るまでの流れを解説します。
内部監査員の準備
内部監査員は、監査対象部門から独立性を保ち、客観的な視点を維持できる人材でなければいけません。選任された監査員は、まず規格の要求事項や自社の運用ルールを正しく理解するために、研修を受けることが望まれます。
その上で、監査で使用する関連する規定や手順書を読み込み、監査対象の業務内容やリスク特性を把握しておく必要があります。準備が不十分なまま監査に臨むと表面的な確認にとどまり、改善の機会を逃しかねません。監査員の力量が監査の質を左右するため、計画段階から十分な育成・準備が求められます。
監査計画の立案と体制づくり
監査を効果的に進めるには、体系的な監査計画の立案が欠かせません。年間のスケジュールの中で実施すべき時期を明確に定め、監査対象の範囲や重点項目を設定します。併せて、監査に必要な人員や役割分担を整理し、監査チームの体制を整備しておくことが重要です。
計画を明示することで監査を受ける部門も準備が可能になり、円滑な協力体制を構築できます。また、経営層に計画を承認してもらうことで全社的な位置付けを明確化し、監査の意義を社内で共有することも大切です。
内部監査チェックリストの作成
監査チェックリストは、監査を実施する際の網羅性・客観性の担保に必要です。リストには規格要求事項や自社で定めたセキュリティ方針・手順書などを含め、各項目に適合しているかを確認しましょう。
網羅的に質問項目を整理することで、重要なポイントの見落としを防げます。ただし、単なる形式的なリストにとどまらず、業務の実態に合わせた具体的な内容を盛り込むことが重要です。実際の運用に照らして確認できるリストを用意することで、改善点を適切に把握できます。
現地確認・インタビュー・文書レビューの実施
監査の実施段階では、現場での確認作業が中心です。業務手順が文書通りに実行されているかを現地で観察し、関係者へのインタビューを通じて理解度や運用状況を確認します。さらに関連する文書や記録をレビューすることで、口頭の説明と実際の証跡を突き合わせ、客観的な判断を下さなければいけません。
このプロセスは時間と労力を要しますが、内部監査の信頼性を支えるポイントになります。そのため、監査員には冷静な判断力と観察力、的確に質問を投げかけるコミュニケーション能力が必要です。
監査結果の記録と内部監査報告書の作成
監査で得られた結果は曖昧にせず、客観的・具体的に記録することが大切です。不適合や改善の余地がある事項を明示するとともに、その根拠となる証拠も残します。さらに記録を基に内部監査報告書を作成し、経営層や関係部門に報告することで、改善の方向性を全社的に共有しましょう。
報告書は単なる指摘箇所を列挙するだけではなく、運用が良好に機能している点も併せて示すことで、現場のモチベーションの維持・向上につながります。
ISMS内部監査を成功させるためのポイント
内部監査の成果を最大化するには、単に形式を守るだけではなく、組織全体の理解と協力を引き出すことが大切です。ISMS内部監査を成功させるポイントを確認しておきましょう。
社員にきちんと目的を共有しておく
監査が単なるチェック作業だと社員が受け止めてしまうと、協力を得にくくなります。監査の目的が組織の安全性向上であることを事前に周知することで、社員が主体的に取り組む姿勢を持てるように促しましょう。
業務の妨げではなく、改善や効率化につながる活動である点を理解してもらう必要があります。経営層からも同じメッセージを発信してもらうことで、監査の重要性を全社的に浸透させることも重要です。
監査員が指摘しやすい状況をつくる
内部監査では、問題を指摘しやすい雰囲気づくりも重要です。監査員が気を使って指摘を避けるようでは、本質的な改善につながりません。組織全体で、不備の発見は責任の追及ではなく、改善が目的であることを共有することで、監査員は率直な指摘がしやすくなります。
加えて、指摘された側も前向きに受け止められるように、フォローアップの仕組みや改善を評価する仕組みを設けましょう。監査の成果を組織に定着させる工夫が必要です。
継続的な改善のためフィードバックの仕組みをつくる
監査の結果は、改善のアクションにつなげてこそ意味があります。指摘事項を関連部署にきちんとフィードバックして、是正措置の状況を定期的に確認する仕組みをつくりましょう。改善活動の進捗を追跡できるようにすることで監査が単発で終わらず、継続的な改善のサイクルが定着します。
さらに、改善結果を社員に広く共有することで、監査がもたらした成果を実感でき、全体のモチベーションの向上にもつながるでしょう。こうした好循環を意識的につくり出すことが、成功のポイントです。
公平性・客観性の担保のため社外への依頼も検討する
内部監査は原則として自社のメンバーで実施しますが、どうしても内部事情に影響されやすい一面もあります。必要に応じて、外部のコンサルタントなどに監査を依頼するのも有効です。
第三者の視点が入ることで、自社では気付きにくい課題を発見できるケースも多く、監査の信頼性や客観性を高められます。外部の視点は内部監査員の育成にも役立つので、その後はより洗練された監査を実施できる可能性があります。継続的に監査の質を高めるため、社外リソースの活用も検討してみましょう。
適切な内部監査で組織の情報セキュリティを強化する
ISMS内部監査は、単なる認証取得の手続きではなく、組織の情報セキュリティを継続的に強化するための仕組みです。社員や経営層が目的を理解して計画的に取り組むことで、大きな効果を発揮します。
公平性を担保する工夫も重ねつつ、単なる業務負担ではなく、組織の価値を高める戦略的な活動と位置付けることが大事です。改善のサイクルを回しながら、必要に応じて外部の視点も取り入れることで、より強固なセキュリティ体制の構築につながります。

Watchy編集部
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【株式会社スタメンについて】 東京証券取引所グロース市場上場。Watchy、TUNAGなど、人と組織の課題解決を実現するSaaSを展開。情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)及びプライバシーマークを取得。