社員の労働時間を適切に把握・管理することは、法令順守の観点だけではなく、社員の健康維持にもつながる重要な課題です。労働時間を正確に把握するための方法や、時間管理におすすめのシステムを紹介します。実践すべきポイントを確認しておきましょう。
目次
企業に労働時間の客観的な把握が求められる背景
労働時間の正確な管理は、労働基準法の順守と社員の労働環境改善の両立のために、欠かせない取り組みです。近年は働き方改革関連法の施行や長時間労働問題の深刻化を背景として、企業にはより客観的で正確な労働時間の把握が求められています。
労働関連法規に基づく企業の責務
企業は労働基準法や労働安全衛生法などの法令に基づき、一人一人の社員の労働時間をきちんと管理する責務を負っています。時間外労働の上限規制や36協定の適切な締結・運用はもちろん、勤務時間データを正確に記録しなければいけません。
虚偽や不備のある記録は、重大なコンプライアンス違反として、行政指導や刑事罰の対象となる可能性もあり、企業としての社会的信用を失う恐れがあります。社員が自己申告する情報だけの管理では、どうしても信頼性に欠けるため、ICカードやPCログなどによる記録が推奨されています。
求められる客観的な記録とは?
客観的記録とは、社員自身の申告に依存せず、機器やシステムにより、自動的に記録されるデータを指します。入退室管理システムのログやPCの使用履歴、打刻機による記録などが代表例です。
これらの記録は改ざんが困難であるため、労働基準監督署の調査や社内監査においても、信頼できる証拠として活用できます。客観的なデータを基に管理することで、長時間労働の早期発見や労務リスクの抑止にもつながります。
※参考:客観的な記録による労働時間の把握が法的義務になりました| 労働基準監督署
上場審査でも客観的な記録が必要
上場を目指す企業の場合、労働時間管理は審査項目となるため、特に厳重な管理が必要です。証券取引所や審査機関は、審査対象企業の労務管理の実態を重視しており、自己申告のみの不十分な管理では、不適切と判断される可能性があります。
特に過重労働や未払い残業代などが発覚すれば、企業価値や信用に大きな影響を及ぼすため、上場準備の段階から、客観的な労働時間記録の仕組みを整備しておかなければいけません。適切な勤怠管理体制の構築は、単なるコンプライアンス対応にとどまらず、投資家や取引先からの信頼の獲得にもつながります。
中小企業の労働時間の把握に関する問題
上記のように、企業は社員の労働時間を正確に把握する義務があり、勤怠情報を適切に管理しなければいけません。しかし中小企業の中には、労働時間管理の重要性を認識しつつも、十分な対応ができていないケースも多いのが実態です。多くの中小企業が抱えている、労働時間管理に関する課題を整理しておきましょう。
自己申告や紙ベース管理の限界
中小企業では勤怠管理のリソースが限られている場合が多く、客観的な労働時間記録の整備が遅れている組織は少なくありません。社員による自己申告のみの場合や、紙ベースでの管理が依然として中心の職場も多いのが実態です。
しかし、こういった管理の方法では、社員が実際の労働時間よりも短い時間を申告する傾向や、残業代の削減を意識した過少申告の問題が発生しやすくなります。また記録の改ざんも容易であり、客観性に欠けるため、労働基準監督署の調査や労働紛争が発生した際などに、十分な証拠を提示できない問題もあります。
管理体制の不十分さやリソースの不足
勤怠管理を担当する人材や、システム導入のコストが不足している中小企業も多く、結果的に管理体制が後手に回りやすいのも現実です。人為的な集計に頼れば誤集計や記録の不備が発生しやすく、それが長時間労働や、未払い残業の温床となっているケースも少なくありません。
さらに、法改正や働き方改革への対応に十分なリソースを割けず、最新の労務管理基準を満たせないまま、勤怠管理をしている企業も見受けられます。
多様な働き方への対応
現代の労働環境では、正社員や契約社員をはじめ、パート・アルバイト・派遣社員など、多様な雇用形態の従業員が混在しており、それぞれに異なる労働時間管理が必要です。しかし、十分に対応できていない中小企業が多いのが実態です。
また、フレックスタイム制や変形労働時間制を導入している企業では、より複雑な管理が求められており、従来の画一的な管理手法では対応が困難なケースも増えています。制度に合わない管理方法を続ければ、残業代の未払いなど法的リスクが生じるため、多様化する働き方に適応できる柔軟な勤怠管理の仕組みづくりが急務です。
テレワーク・リモートワークの勤怠管理
新型コロナウイルス感染症の拡大を機に、急速に普及したテレワークやリモートワークは、労働時間管理において新たな課題を生み出しています。社員が自宅やコワーキングスペースなど、さまざまな場所で勤務する中で、従来のオフィスでの入退室記録による管理手法が適用できなくなりました。
在宅勤務では労働時間と私的時間の境界が曖昧になりがちで、実際の労働時間の把握ができていない中小企業は多くあります。
PCの起動・終了時刻と、実際の労働開始・終了時刻にずれが生じることもあり、正確な労働時間の把握には工夫が必要です。さらに中抜け時間の取り扱いや、複数のデバイスを使用する場合の管理方法など、テレワーク特有の課題への対応も求められています。
社員の労働時間を正しく把握するには?
適切な労働時間管理のためには、客観的で正確なデータ収集と、効率的な管理システムの構築が不可欠です。以下のポイントを意識しながら、従来の自己申告制に依存せず、客観的に勤怠データを収集・管理できる体制づくりに注力しましょう。
ICカード・生体認証などの打刻システムの活用
ICカードや指紋認証などの打刻システムは、社員の出退勤時刻を正確に記録するのに有効な方法です。これらのシステムは改ざんが難しく、労働基準監督署の調査でも信頼できるデータとして認められています。
また、社員側にとっても操作が簡単であり、業務負担を増やさずに正確な記録が可能です。システムによってはクラウドと連携し、リアルタイムで勤怠状況を確認できるため、管理者が全社員の勤務実態を把握しやすいのもメリットです。
PCログ・入退室記録など客観的データの収集
PCの起動・シャットダウンの記録や、オフィスの入退室ログも、客観的な労働時間把握に有効な手段です。特にホワイトカラーの労働では、実際にPCを操作している時間が業務実態に近いことが多いため、残業や長時間労働の検出に役立ちます。
また、入退室記録を合わせて管理することで、より正確な勤務実態の把握が可能です。こうしたデータを勤怠管理システムに統合することで、社員ごとの勤務傾向を可視化し、過重労働の予防や生産性の向上にも寄与します。
在宅勤務者を含めたハイブリッドな情報管理
オフィス勤務と在宅勤務が混在する企業が多い中で、労働時間の管理にはハイブリッドな仕組みが欠かせません。在宅勤務では打刻やPCログの取得に加えて、業務アプリの利用状況やオンライン会議の記録などを、補助的に活用する方法が有効です。
一方で、在宅勤務者にとっては「見られている」という意識が過剰にならないように、プライバシーに配慮したデータ管理も求められます。多様な勤務形態に対応できる勤怠管理システムを導入し、統合的に情報を管理することで、公平かつ効率的に労働時間を把握する仕組みづくりが必要です。
社員の労働時間を適切に管理するポイント
効果的な労働時間管理を実現するには、上記のようなシステムの導入に加えて、運用面での工夫と継続的な改善が必要です。以下のポイントを理解し、組織全体で勤怠データの正確性を担保するための取り組みに注力しましょう。
労働時間の記録方法の見直し
従来の労働時間の記録方法を客観的な手法に見直すことは、適切な労働時間管理の第一歩です。いまだ中小企業に多い紙やExcelベースでの管理を見直し、正確かつ効率的にデータを収集できる方式に切り替えることが重要です。
さらに、記録の粒度を細かく設定し、休憩時間や中抜けなども正確に把握することで、より実態に即した労務マネジメントが必要です。勤怠データの記録精度の改善は、法令の順守にとどまらず、社員の負担軽減や公正な評価体制の確立にもつながり、従業員エンゲージメントの向上にも寄与します。
自己申告制の適正な運用
客観的な勤怠記録の収集が困難な職種や業務においては、自己申告制を適正に運用することも必要なアプローチです。自己申告制を採用する場合は、労働基準法に定められた要件を満たす必要があり、適正な申告を担保するための仕組みづくりが不可欠です。
具体的には、労働時間の実態を把握するための実態調査の実施や、上司による労働時間の確認体制の構築、客観的記録との突合チェックなどが求められます。PCのログ記録やセキュリティカードの入退室記録など、労働時間を推測できる客観的なデータと照らし合わせることで、自己申告の正確性を担保しましょう。
また各社員に対して、労働時間を正確に申告することの重要性や、意図的な過少申告がもたらす問題について十分に説明し、理解を得ることも大切です。その上で、定期的に労働時間の申告状況をチェックし、実態と大きく乖離している場合には、個別に確認するなどの対応が求められます。
※参考:労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン |厚生労働省
記録書類の保存と給与への正確な反映
労働時間に関する記録は一定期間保存が必要であり、給与計算への正確な反映も法律上の義務とされています。勤怠データの保存・管理が不十分であれば、未払い残業の発生や法令違反のリスクが高まるので、データの完全性を保持する仕組みと適切なバックアップが必要です。
さらに、記録した労働時間は、給与計算に正確に反映させなければいけません。残業代や深夜勤務手当などの計算ミスを防ぐため、チェック体制の強化が求められます。
なお、勤怠管理システムを活用すれば、自動で勤怠データの保存と連動ができ、効率的な情報管理が可能です。保存データの監査対応性も高められるので、上場審査や行政調査においても、迅速に対応できるようになるでしょう。
労働時間管理におすすめの勤怠管理システム
近年はクラウド型の勤怠管理システムが充実しており、中小企業から大企業まで幅広く利用されています。ここでは代表的な三つのシステムを紹介するので、特徴や機能などを比較した上で、自社に合った製品の導入を検討してみましょう。
ジョブカン勤怠管理
ジョブカン勤怠管理は、中小企業から大企業まで幅広く利用されている、クラウド型の勤怠管理システムです。シンプルで直感的な操作画面により、従業員と管理者の両方にとって使いやすく設計されており、導入から運用開始までの期間が短いのも特徴です。
打刻方法は、ICカード・指静脈認証・GPS打刻・PCログ・スマートフォンアプリなど、多様な手段に対応しており、さまざまな働き方に柔軟に対応できます。
さらに、労働基準法に準拠した残業時間の自動計算機能や、36協定の上限時間に対するアラート機能も搭載しており、シフト管理機能や有給休暇管理機能も充実しています。中小企業から大企業までスケール対応が可能で、自社の成長に合わせて柔軟に活用できる点も魅力です。
HRMOS(ハーモス)勤怠
HRMOS勤怠は、ハーモスシリーズを組み合わせることで、勤怠管理だけではなく人事評価・配置・採用など、人事関連情報を統合管理できるサービスです。勤怠データを活用した人材マネジメントを重視する企業に適しており、単なる勤怠ツールにとどまらず、人事システムとしての運用が可能です。
さらに、クラウド上で直感的に操作できるUIを採用しているため、現場の社員から管理部門までスムーズに活用でき、データ入力や承認作業の手間も大幅に削減できます。組織全体で、人的資本経営を推進する際の基盤となるシステムとして有効であり、戦略的な労務管理を後押しします。
freee勤怠管理Plus
freee勤怠管理Plusは、会計ソフトで知られるフリー株式会社が提供する勤怠管理システムで、同社の会計システムや給与計算システムとスムーズに連携できます。労働時間の記録から給与計算・会計処理まで一気通貫で対応可能で、経理業務の効率化と法令順守を両立できるソリューションとして人気があります。
操作画面もシンプルで分かりやすく設計されており、ITに詳しくない社員でも利用しやすく、ベンダーのサポート体制も充実しています。料金設定も中小企業にとって導入しやすい水準に設定されており、段階的に機能を拡張できるのも強みです。
勤怠管理システムのおすすめなら | freee勤怠管理Plus
社員の労働時間管理なら「Watchy」もおすすめ
労働時間の適切な管理は、現代企業にとって法令の順守はもちろん、社員の健康維持の点からも不可欠な取り組みです。働き方改革関連法の施行により客観的な労働時間把握が義務化され、企業には従来以上に精密で、透明性の高い管理体制の構築が求められています。
特に中小企業においては、限られたリソースの中で効果的な労働時間管理を実現する必要があり、適切なツールの選択・運用が必要です。上記のような勤怠システムの導入に加えて、ICカードや入退室ログ・PC操作記録を統合しPC操作ログやアプリ利用状況といった客観的データを活用し、、テレワークにも柔軟に対応できる「Watchy」の導入もご検討ください。
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