企業で使用するPCやソフトウェアなどのIT資産を正確に管理するには、IT資産管理台帳の整備が欠かせません。Excelでの台帳の作成方法や管理ツールとの違い、それぞれのメリット・デメリット、テンプレートの活用方法などを確認しておきましょう。
目次
IT資産管理台帳とは?
IT資産管理台帳とは、企業や組織が保有するハードウェアやソフトウェア、ライセンス情報などを一覧化し、資産の状態を可視化するための管理表です。台帳を整備することで、どの部署がどの資産を利用しているか、保守期限やライセンスの有効期間、廃棄予定日などを明確に把握できます。
IT資産は目に見えないデジタル領域のものが多く、定期的な棚卸しを怠ると、コストの無駄やセキュリティリスクが発生しかねません。適切な台帳管理は、これらの課題を未然に防ぎつつ、経営やITガバナンスの基盤を整える重要な仕組みです。
特に、近年はリモートワークの拡大により、社外に持ち出される機器も増加しており、資産の所在や利用状況を正確に管理する重要性が高まっています。適切な台帳管理は、コスト最適化やセキュリティの強化、監査対応の効率化にもつながります。
IT資産管理台帳の必要性
企業活動におけるIT資産の重要性が増す現代において、その管理台帳の必要性も高まっています。IT資産管理台帳が求められる理由について、ここで整理しておきましょう。適切な管理体制を構築することで、企業はさまざまなリスクを回避できます。
IT資産の所在や状態の管理
一般的に、企業は多数のPCや周辺機器を抱えており、それぞれの設置場所や使用者を把握するのは容易ではありません。台帳をきちんと整備することで、どの資産がどこで誰に使用されているのか可視化でき、機器の紛失や運用上のトラブルの防止につながります。
また、修理履歴や保証期間の情報を記録しておけば、更新や保守の判断もスムーズになるでしょう。管理台帳による資産のライフサイクル全体の把握は、不要な調達や不正使用の抑止にもつながります。
不要なIT資産の購入の防止
IT資産管理台帳の作成により、不要なIT資産の購入を効果的に防止できます。企業によっては、部署ごとにIT資産を個別に調達しているケースも少なくありません。この場合、全体の資産状況が不透明になり、すでに十分な数や性能を持つ機器があるにもかかわらず、重複購入が発生する可能性があります。
そこで管理台帳があれば、既存のIT資産の保有状況やスペック、利用状況が一目で確認できるため、新たな購入が必要かどうか客観的な判断が可能です。これによりIT関連の費用の最適化と、予算の有効活用に寄与します。
セキュリティ対策
企業のセキュリティ対策においても、IT資産管理台帳は重要な役割を果たします。どのIT資産がどこにあり、誰が使用しているのかを正確に把握することで、セキュリティリスクの発生源を特定し、適切な対策を講じられるようになります。
例えば、OSのバージョンが古いPCや、セキュリティパッチが適用されていないサーバーなどを特定し、スムーズな対応が可能になるでしょう。サイバー攻撃やマルウェア感染のリスクを低減できます。
また、IT機器の紛失や盗難が発生した場合でも、管理台帳に記録された情報に基づいて、速やかに機器の利用停止やデータ消去などの対策を講じられます。
コンプライアンスの順守
管理台帳を通じて、IT資産の利用状況を把握しておけば、ソフトウェアライセンスの違反防止や監査対応の円滑化にもつながります。
一方で、ライセンス数や利用者の管理を怠ると、管理者が気付かないうちに不正な使用が頻発し、法的リスクを抱える可能性もあるでしょう。コンプライアンス順守の観点からも、IT資産管理台帳の作成・運用は欠かせない取り組みです。
さらに、内部統制やセキュリティ管理の強化にもつながるため、管理台帳は企業のガバナンスを支える重要な基盤といえます。
IT資産管理台帳の作成方法
IT資産管理台帳は、Excelなどの表計算ソフトを使って自作する方法と、専用の管理ツールを利用する方法があります。以下のように、それぞれに特徴やメリット・注意点があるため、自社の規模や目的に合わせて選択することが重要です。
Excelやスプレッドシートで台帳を作成する
Excelやスプレッドシートを使った管理台帳の作成は、最も手軽に始められる方法で、新規にシートを作成し、管理したい項目を列として設定するのが一般的です。基本的な項目としては、資産番号や資産名・型番・購入日・使用者・設置場所、さらに保守契約の有無などが挙げられます。
また関数を活用すれば、保守期限の自動計算や期限切れの警告表示なども実装可能です。共有機能を使えば複数人での更新にも対応できますが、同時編集にはデータの競合や上書きのリスクが伴います。更新ルールや担当者を明確にして運用することが重要です。
中小企業や管理する資産数が比較的少ない場合には、Excelでの管理で問題ないケースも多いでしょう。ただし、セキュリティ上のリスクが残る点には、十分注意が必要です。パスワードの設定やアクセス権限の制限などをしないまま運用すると、意図しない改ざんや情報漏洩の恐れがあります。
IT資産管理ツールを利用する
IT資産管理ツールは、資産情報の収集から管理、レポート作成まで自動化できる専用システムです。ネットワークに接続された機器を自動検出し、ハードウェアの構成や、インストールされているソフトウェアの情報を収集する機能を備えています。
ツールの導入により手動入力の手間が大幅に削減され、常に最新の情報が反映されるため、データの正確性が向上するでしょう。また、ライセンス管理機能では、購入数と使用数を自動的に照合し、不足や過剰を警告してくれます。クラウド型のツールであれば、複数拠点からのアクセスも容易で、リモートワークの環境にもおすすめです。
導入にはコストがかかりますが、管理する資産数が多い企業や、より高度な管理を求める組織には最適な選択肢といえるでしょう。
IT資産管理台帳をExcelで作成するメリット
ここからは、IT資産管理をExcelで作成するメリットとデメリット、専用ツールで作成するメリット・デメリットの双方について解説します。まずは、管理台帳の作成にExcelを活用するメリットから、整理しておきましょう。
導入コストをかけずに管理できる
ExcelでIT資産管理台帳を作成する最大のメリットは、導入コストをほとんどかけずに、IT資産の管理を開始できる点にあります。多くの企業では、すでにMicrosoft Officeが導入されており、Excelもその一部として利用可能です。
新たに専用のIT資産管理ツールを購入する必要がなく、追加のソフトウェアライセンス費用や、システム構築にかかる初期費用が発生しません。予算が限られている中小企業や、まずは試験的にIT資産管理を始めてみたいという企業にとって、有用な選択肢といえます。
多くの社員にとって使いやすい
Excelはビジネスの現場で広く使われているツールであり、基本的な操作方法に慣れている社員は多いでしょう。この点は、IT資産管理台帳をExcelで作成する上で、大きなメリットの一つです。
新しいツールを導入する場合、社員へのトレーニングが必要となり、慣れるまでに時間や手間がかかる可能性があります。一方でExcelであれば、普段の業務で培ったスキルをそのまま活用できるため学習コストが低く、導入後のスムーズな運用が期待できます。
さらに、社員全員が既存の操作環境に慣れていることで、入力ミスや操作の戸惑いを最小限に抑えられ、台帳の精度や更新頻度も自然に向上するでしょう。管理者だけではなく、現場の社員も負担なく台帳管理に参加できます。
カスタマイズの自由度が高い
自社の業務に合わせて自由にカスタマイズできる点も、ExcelによるIT資産管理台帳のメリットです。管理したい項目を柔軟に追加・削除でき、業種や部署ごとの特殊な要件にも対応できます。
例えば、ソフトウェアの開発企業であれば、ライセンス形態やサブスクリプションの更新日を詳細に記録するなど、組織の特性に応じた台帳の作成・運用が可能です。また、関数やマクロを活用すれば、自動計算や条件付き書式設定など、高度な機能も実装できます。
専門的なプログラミング知識がなくても、ある程度のExcelスキルがあれば、使い勝手の良い台帳を構築できる点は、大きな魅力といえるでしょう。
IT資産管理台帳をExcelで作成するデメリット
一方で、Excelによる管理には多くのデメリットもあります。特に情報量が多くなるほど、手作業での更新や共有が煩雑になる傾向があるので注意が必要です。ここでは主な課題を確認しておきましょう。
人為的なミスが増えやすい
Excelは手入力が中心となるため、入力漏れや誤記入などのヒューマンエラーが発生しやすい傾向にあります。特に、管理対象が増えると入力作業の負担が増大し、修正作業にも時間がかかるでしょう。
誤った情報をもとにIT資産の更新や調達をしていると、無駄なコストやトラブルの原因にもなりかねません。運用ルールの明確化とともに、定期的なチェック体制の整備が必要です。
さらに複数の担当者が異なる形式で入力を進めると、表記ゆれやフォーマット崩れが発生し、集計や分析の精度を下げてしまう場合もあります。人的ミスは気付きにくい場合が多く、問題が蓄積すると資産全体の状態の把握や、ライセンス管理にも影響を及ぼしかねません。
そのため入力規則やドロップダウンリストを設定するなど、Excelの機能を活用したミス防止策も、併せて導入することが重要です。
情報の更新・共有に手間がかかる
Excelファイルを複数の担当者で共有する場合、バージョン管理や更新のタイミングを合わせる必要があります。共有フォルダやクラウド上で運用しても、同時編集による競合や整合性の問題が発生するケースは珍しくありません。
部署ごとに異なる台帳を管理していると、情報が分散し、全体の状況把握が難しくなります。スムーズな共有体制を構築するには、運用ルールの徹底が欠かせません。
また、担当者の異動や退職などにより管理の引き継ぎが不十分になると、更新が滞るリスクもあります。情報が古いまま放置されると、実際の資産状況との乖離が生じ、ライセンス更新や機器廃棄の判断を誤る可能性があります。
データの整合性を維持するのが難しい
Excelでは複数のシートやファイルを扱う中で、リンク切れや数式のエラーが生じることも少なくありません。データの重複・不一致が起こると、台帳全体の信頼性が損なわれる恐れがあります。
資産の追加・削除のたびに複数の箇所を手動で更新する手間も大きく、長期的な管理には不向きな面があり、データ量が増えるほど整合性の維持が困難になります。
特に、複数拠点で管理している場合や海外支社を含む企業では、ファイル同期やフォーマット統一に多くの手間がかかるでしょう。ファイルの破損や誤削除といったリスクも無視できません。
IT資産管理ツールで台帳を管理するメリット
次に、IT資産管理ツールによって、台帳を作成・管理するメリットを確認していきましょう。専用のIT資産管理ツールを導入すると、Excelでの手動管理では難しかった高度な機能を活用できます。さらに、自動化により作業負担が軽減されるだけでなく、データの正確性や信頼性も大幅に向上します。
情報を一元管理でき正確性が向上する
IT資産管理ツールでは、機器やソフトウェアの情報を一元的に管理できます。ネットワーク上の機器を自動的に検出し、台帳を自動生成する機能も備わっているため、人的ミスを大幅に減らせるのがメリットです。
部署をまたいだ資産情報の統合も容易で、最新のデータに基づいて正確な判断を下せます。管理対象が多い企業ほど、ツールの効果は顕著に表れます。
さらに、ツール上で資産の利用履歴や変更履歴を追跡できるため、監査や内部統制にも活用可能です。リアルタイムでの情報更新が可能なため、古いデータが残る心配も少なく、管理精度が大きく向上するでしょう。
作業ミスが減り業務効率化が可能になる
ツールを導入することで、入力作業や更新作業の自動化が進み、担当者の負担を軽減できるのもメリットです。台帳更新やレポート作成にかかる時間を削減できるため、管理部門の生産性の向上につながります。
また、アラート機能によりライセンス期限や保証期間を自動通知でき、更新漏れの防止にも寄与します。正確性と効率を両立できる点が、Excel管理との大きな違いです。ツールによっては資産の稼働状況や利用率を分析し、コスト最適化の提案を受けられる製品もあります。
加えて、ツール上で複数人が同時に情報を更新しても整合性が保たれるため、部署間での情報共有がスムーズになり、作業の重複やミスを減らせるでしょう。
データの整合性・客観性を担保しやすい
IT資産管理ツールはデータベースを基盤としており、整合性の取れた状態で情報を保持できます。変更履歴も自動で記録されるため、誰が・いつ・どの情報を更新したかを追跡が可能です。
これにより、監査対応やトラブル時の原因追及もスムーズになります。また、複数部署や拠点で同時に情報を管理しても、データの不整合が生じにくく、常に最新かつ正確な情報を維持できます。
さらに、ツールではアクセス権限の細かな設定が可能で、機密性の高い情報も安全に取り扱えるのもメリットです。承認フローや権限管理をシステム化すれば、組織全体の透明性と信頼性を高められるのに加えて、内部統制やコンプライアンスの順守にも寄与します。
IT資産管理ツールで台帳を管理するデメリット
IT資産管理ツールには多くのメリットがある一方で、導入・運用において注意すべき点もあります。特に、予算や人的リソースが限られている中小企業にとっては、慎重な検討が必要です。ここでは、IT資産管理ツール導入時における、二つのデメリットを押さえておきましょう。
ツールの導入・運用に相応のコストがかかる
IT資産管理ツールの導入には、ライセンス費用やサーバー構築費用などの初期投資が必要です。クラウド型のツールであれば初期費用は抑えられますが、月額または年額のサブスクリプション費用が継続的に発生します。
管理する資産の数や、利用するユーザー数に応じて料金が設定されることが多く、事業規模が大きいほどコストは増大します。また既存のシステムとの連携や、自社の業務フローに合わせたカスタマイズを行う場合は、追加の開発費用がかかるケースも珍しくありません。
さらに、ツールの運用管理者を配置するための人件費や、トラブル発生時のサポート費用なども考慮しなければいけません。これらのコストが投資対効果に見合うかどうか、慎重に評価する必要があります。
ツールの運用が定着するまで時間を要する
新しいツールを導入しても、すぐに組織全体で活用できるわけではありません。まずは、システムの使い方を理解するための研修や、操作マニュアルの作成が必要です。特に、これまでExcelなどのシンプルなツールを使っていた組織では、社員の間に新しいシステムへの抵抗感が生まれることもあるでしょう。
また、既存のExcelデータを新システムに移行する作業にも時間がかかり、データのクレンジングや整形が必要になる場合もあります。
さらに運用ルールの策定や、各部署への周知も必要です。システムが本格的に稼働し、組織に定着するまでには、数カ月から半年程度を要することも珍しくありません。この移行期間中は、従来の方法と並行して作業を行う必要があり、一時的に業務負荷が増加する可能性もあります。
IT資産管理台帳のテンプレートの使用方法
IT資産管理台帳を効率的に運用するには、適切なテンプレートの活用が有効です。テンプレートを使えば、一から台帳を設計する手間が省けるだけではなく、必要な項目を網羅した管理が可能になります。テンプレートに記載すべき項目と、作成時の注意点を確認しておきましょう。
IT資産管理台帳に記載すべき項目
IT資産管理台帳には、資産を特定・追跡するための基本情報を、漏れなく記載する必要があります。以下の内容は、テンプレートにも記載項目として用意しておきましょう。
- 基本情報:資産番号・資産名・メーカー名・型番・購入日など、資産を一意に特定するための情報です。これらを正確に記録することで、資産の追跡や棚卸し作業がスムーズにできるようになります。
- 利用部門情報:資産を使用している部署や担当者の情報を記載します。誰が・どの資産を使用しているかを明確にすることで、管理責任の所在や利用状況の把握が容易になります。
- IT資産のステータス(資産状態):資産が使用中・保管中・故障中・廃棄予定など、どういった状態にあるかを記録します。資産の稼働状況を把握することで、無駄な購入やリソースの偏りを防止できます。
- 保守契約情報:保証期間や保守契約の有無・契約内容・契約更新日などを記載します。これにより、保守期限の管理やサポート対応の漏れを防ぎ、資産の安定運用に役立ちます。
- ライセンス情報:ソフトウェアの場合は、ライセンスの種類や契約数・有効期限・使用者情報などを記録します。ライセンス違反や契約更新漏れを防ぎ、コンプライアンスの順守に直結します。
- 登録情報:台帳に登録した日付や更新履歴など、管理の履歴情報を記載します。誰が・いつ更新したかを把握することで、情報の信頼性を担保し、トラブル時の原因追跡にも役立ちます。
これらの項目をきちんと用意しておくことで、IT資産の状況を正確に把握し、日常の管理や意思決定にすぐに活用できる台帳になるでしょう。
テンプレート作成時の注意点
テンプレートを作成する際には、自社の管理目的や業務フローに合わせて、適宜カスタマイズが必要です。あらゆる企業に共通する完璧なテンプレートは存在しないため、自社の実態に即した項目を選定・抽出することが大事です。
項目が多すぎると入力負担が増え、運用が続かなくなるリスクがあるため、本当に必要な項目に絞り込みましょう。逆に、項目が不足していると後から追加する手間が発生するため、将来的な拡張性も考慮する必要もあります。
また入力規則を設定し、日付形式や選択肢を統一することで、データの表記ゆれを防ぐのも重要なポイントです。プルダウンリストなども活用すれば、入力ミスを減らしつつ、効率的な運用が可能になります。
なお、Watchyでは、IT資産管理に活用できるExcelのテンプレートを用意しています。ぜひダウンロードしてご利用ください。
テンプレートを活用して効率的なIT資産管理を
IT資産管理台帳は、企業のIT資産を可視化し、コストの削減やセキュリティ対策に加えて、コンプライアンスを順守するための重要なツールです。
Excelでの管理は導入コストが低く使いやすい半面、人為的ミスや更新の手間といった課題があります。一方、IT資産管理ツールは、豊富な機能により管理の正確性と効率性が向上しますが、導入コストや定着までの時間が必要です。
双方のメリットとデメリットを比較した上で、自社に合った形で管理台帳を作成しましょう。テンプレートを活用すれば、初期設定や項目設計の手間を減らし、すぐに運用を開始できるため、効率的かつ正確な資産管理が可能になります。本記事からダウンロードできるExcelのテンプレートも、この機会に活用してみましょう。
Watchy編集部
従業員が安心して働ける環境を提供するための、IT資産管理、情報漏洩対策、労務管理に関するコンテンツを発信しています。
Watchyは、株式会社スタメンが運営するクラウドサービスです。企業のIT情報統制の課題やバックオフィスの課題を、情報システム担当者が手薄な状況でも、Watchyが解決。設定・運用の手間を最小化しながら、押さえるべきポイントを確実に押さえた企業統制の実現を支援します。
【株式会社スタメンについて】 東京証券取引所グロース市場上場。Watchy、TUNAGなど、人と組織の課題解決を実現するSaaSを展開。情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)及びプライバシーマークを取得。

