個人情報漏洩は企業の信頼を大きく損なう事態につながりかねません。適切な対応を行うためには、個人情報漏洩対応マニュアルの作成が不可欠です。
本記事では、個人情報漏洩の定義や影響、起こりうる原因を解説するとともに、対応マニュアルの作成方法や必要な項目、実際の事例から学ぶ教訓などを詳しく紹介します。
自社の個人情報漏洩対応マニュアルを見直し、改善点があれば修正しましょう。
また、定期的な社内研修を通じて、従業員の意識を高めることも重要です。
目次
個人情報漏洩とは何か
個人情報漏洩について理解を深めるために、まずは個人情報の定義と具体例、個人情報漏洩の事例と影響、個人情報保護法の概要、企業の責任と義務について解説します。
個人情報の定義と具体例
個人情報とは、生存する個人に関する情報であって、特定の個人を識別することができるものを指します。具体的には、氏名、住所、電話番号、メールアドレス、生年月日、性別、顧客番号、従業員ID、クレジットカード情報などが該当します。
これらの情報は、個人情報保護法に基づき、適切な管理が求められています。企業は、個人情報を取り扱う際には、法律を遵守し、慎重に対応する必要があります。
個人情報漏洩の事例と影響
個人情報漏洩には、不正アクセスによる顧客情報の流出、従業員のUSBメモリ紛失による情報漏洩、委託先からの情報流出など、様々な事例があります。
漏洩した個人情報が悪用されると、なりすまし被害、不正請求、スパムメールの増加など、二次被害が発生する可能性があります。企業にとっては、信用失墜や損害賠償請求などの影響が生じるリスクもあるため、個人情報漏洩は重大な問題と認識すべきでしょう。
個人情報保護法の概要 ※ここから再開
個人情報保護法は、個人情報の適正な取り扱いを定めた法律です。主な内容として、個人情報の取得・利用・提供に関するルール、安全管理措置の義務付け、個人情報の開示・訂正・利用停止等の請求権の規定などがあります。
2022年4月には改正個人情報保護法が全面施行され、個人の権利利益のより一層の保護が図られています。企業は、法律の内容を理解し、適切に対応することが求められます。
企業の責任と義務
個人情報保護法では、個人情報を取り扱う事業者に対して、様々な責任と義務が課されています。具体的には、個人情報の適正な取得、利用目的の特定と通知、安全管理措置の実施、従業員への監督・教育などが挙げられます。
これらの責任と義務を怠ると、勧告、命令、罰則などの対象となる可能性があります。企業は、法律を遵守し、個人情報保護に真摯に取り組む必要があるでしょう。
個人情報漏洩が起こる原因
個人情報漏洩を防ぐためには、その原因を理解することが重要です。
ここでは、サイバー攻撃による情報流出、内部犯行と人的エラー、紛失・盗難による情報漏洩、委託先や取引先からの情報流出について解説します。
サイバー攻撃による情報流出
サイバー攻撃は、個人情報漏洩の主要な原因の一つです。不正アクセス、マルウェア感染、フィッシング詐欺などにより、企業のシステムが攻撃を受け、個人情報が外部に流出してしまう事態が発生しています。
攻撃手法は年々巧妙化しており、企業はセキュリティ対策の強化が求められます。最新の脅威情報を収集し、適切な対策を講じることが重要です。
内部犯行と人的エラー
従業員による個人情報の持ち出しや売却、誤操作によるメール誤送信など、内部犯行と人的エラーも情報漏洩の原因となります。背景には、従業員の情報セキュリティに対する意識の低さや、適切な教育・管理体制の不備などがあります。
内部からの情報漏洩を防ぐためには、従業員教育の充実と管理体制の強化が不可欠です。定期的な研修や、情報取扱規程の整備などが有効でしょう。
紛失・盗難による情報漏洩
個人情報を含む書類やUSBメモリなどの紛失・盗難も、情報漏洩の原因の一つです。電車内に書類を置き忘れる、飲食店で鞄を盗まれるなど、ちょっとした不注意が情報漏洩につながる可能性があります。
情報機器の暗号化、書類の施錠管理、持ち出し制限など、物理的なセキュリティ対策を講じることが重要です。また、従業員への注意喚起も欠かせません。
委託先や取引先からの情報流出
企業が個人情報を含む業務を外部に委託している場合、委託先や取引先からの情報流出リスクがあります。委託先の管理体制の不備や、従業員の不正行為などが原因となる可能性があります。
企業は、委託先の選定時に情報セキュリティ対策状況を確認し、適切な管理を求める必要があります。また、委託先との契約においても、個人情報保護に関する条項を盛り込むことが重要です。
個人情報漏洩対応マニュアルの作成方法
個人情報漏洩対応マニュアルは、漏洩発生時の対応を迅速かつ適切に行うために不可欠です。
ここでは、マニュアルに必要な項目、漏洩発生時の対応体制と連絡先、事実確認と漏洩範囲の特定方法、関係者への報告と公的機関への届出、顧客への説明と謝罪の方法、再発防止策の策定と実行について解説します。
マニュアルに必要な項目
個人情報漏洩対応マニュアルには、漏洩発生時の対応体制、連絡先、対応手順、報告書のテンプレートなどを記載します。
具体的には、対応チームの役割分担、関係部署・委託先・顧客等への連絡方法、事実確認の方法、公的機関への報告手順、顧客対応の方法、再発防止策の検討プロセスなどを明確にしておく必要があります。これらの項目を網羅することで、漏洩発生時に迅速かつ適切な対応が可能になります。
漏洩発生時の対応体制と連絡先
個人情報漏洩が発生した際には、速やかに対応体制を整え、関係者への連絡を行う必要があります。そのためには、予め対応チームの編成、役割分担、意思決定プロセスなどを明確にしておくことが重要です。
また、関係部署・委託先・顧客等の連絡先リストを作成し、迅速に連絡できる体制を整えましょう。24時間365日対応可能な連絡窓口の設置も検討すべきでしょう。
事実確認と漏洩範囲の特定方法
個人情報漏洩が発生した場合、まず事実関係を確認し、漏洩した情報の内容や範囲を特定する必要があります。システムのログ解析、関係者へのヒアリング、委託先の調査などを通じて、漏洩経路や原因を突き止めましょう。
また、漏洩した個人情報の件数、種類、期間なども可能な限り特定し、公表の要否を判断します。これらの情報は、顧客対応や再発防止策の検討に活用できます。
関係者への報告と公的機関への届出
個人情報漏洩が確認された場合、社内の関係部署や経営層への報告、委託元への連絡などを速やかに行います。また、個人情報保護委員会への報告、警察への被害届提出なども必要に応じて実施します。
報告・届出の要否や時期、方法などをマニュアルに明記し、適切に対応できるようにしておきましょう。これらの対応を適切に行うことで、企業の信頼を維持することにつながります。
顧客への説明と謝罪の方法
個人情報漏洩が発生した場合、影響を受けた顧客に対して、事実関係の説明と謝罪を行う必要があります。連絡方法(文書、メール、電話等)、説明内容、問い合わせ窓口の設置などを予め定めておくことが重要です。
顧客対応では、誠意を持って対応し、二次被害防止のための注意喚起も行いましょう。適切な顧客対応は、信頼回復につながります。
再発防止策の策定と実行
個人情報漏洩を防ぐためには、原因を分析し、再発防止策を策定・実行することが重要です。技術的対策、人的対策、物理的対策など、多角的なアプローチが必要です。
マニュアルには、再発防止策の検討プロセスや実施体制、スケジュールなどを記載し、着実に実行できるようにしましょう。再発防止策の実行状況を定期的に確認し、必要に応じて改善を図ることも大切です。
個人情報漏洩を防ぐための対策
個人情報漏洩を防ぐためには、技術的対策、人的対策、物理的対策を多層的に講じる必要があります。
ここでは、暗号化やアクセス制御などの技術的対策、従業員教育や情報取扱規程の整備などの人的対策、施錠管理や持ち出し制限などの物理的対策、定期的な監査とマニュアルの見直しについて解説します。
技術的対策(暗号化、アクセス制御、ソフトウェア・ハードウェアなど)
個人情報を取り扱うシステムやデータベースには、暗号化やアクセス制御などの技術的対策を講じる必要があります。暗号化により、万が一情報が流出しても、第三者が内容を読み取ることを防げます。
また、アクセス制御により、権限のない者によるデータへのアクセスを防止できます。加えて、サイバー攻撃から守るために、ソフトウェアやハードウェアを常に最新の状態に更新することも重要です。これらの対策を組み合わせることで、個人情報漏洩のリスクを大幅に減らすことができるでしょう。
人的対策(従業員教育、情報取扱規程の整備など)
個人情報漏洩を防ぐためには、従業員の意識向上と適切な行動が不可欠です。定期的な教育・訓練を実施し、個人情報保護の重要性や具体的な取扱方法を周知徹底しましょう。
また、情報取扱規程を整備し、従業員の守るべきルールを明確にしておくことも重要です。これらの対策により、従業員の情報セキュリティに対する意識を高め、適切な行動を促すことができます。
物理的対策(施錠管理、持ち出し制限、USBデバイスの管理など)
個人情報を含む書類やデータの紛失・盗難を防ぐためには、物理的な対策も必要です。書類は施錠可能なキャビネットで保管し、データは暗号化したうえで保存しましょう。
また、業務上必要のない個人情報の社外への持ち出しを制限し、持ち出す場合は上長の許可を得るなどのルールを設けることも有効です。
加えて、USBメモリなどの外部記憶デバイスの使用を制限し、許可された機器のみを使用するようにすることも重要です。これらの対策により、物理的な情報漏洩のリスクを減らすことができます。
定期的な監査とマニュアルの見直し
個人情報保護対策の実効性を確保するためには、定期的な監査とマニュアルの見直しが欠かせません。監査により、対策の運用状況や課題を把握し、必要に応じて改善を図ります。
また、法改正や技術の進歩、社会情勢の変化などを踏まえ、定期的にマニュアルを見直し、最新の状況に対応できるようにしておきましょう。これらの取り組みにより、個人情報保護対策の継続的な改善が可能になります。
個人情報漏洩対応の事例と教訓
実際の個人情報漏洩事例から学ぶことは多くあります。ここでは、NTTドコモの顧客情報不正利用事件、ファミリーマートの会員情報流出事例、東京女子医科大学病院の患者情報漏洩事件を取り上げ、それぞれの事例の概要と教訓について解説します。
NTTドコモの顧客情報不正利用事件
2023年3月、NTTドコモは個人情報流出の可能性について調査結果を発表しました。同社の子会社であるぷらら、ひかりTV等の顧客約596万件の個人情報が、業務委託先NTTネクシアの元派遣社員により業務PCから外部ストレージへ不正に持ち出されたことが確認されました。クレジットカード情報等は含まれておらず、第三者による外部ストレージへのアクセスは確認されていませんが、ネットワーク監視で不正を検知し、本人へのヒアリングを実施するなど、迅速な対応が行われました。
この事例から、委託先の管理体制の重要性と、不正行為の早期発見・対応の必要性を学ぶことができます。
参照記事:ぷららとひかりTVから約600万件の個人情報流出、ドコモ関連会社の内部犯行 | 日経クロステック(xTECH)
ファミリーマートの会員情報流出事例
2003年10月、ファミリーマートでは、ファミマ・クラブ会員に対し債権回収業者を名乗る不審な請求書が多数届いたことを受け、調査委員会を設置しました。外部専門家や弁護士の協力を得て調査した結果、2002年10月時点のメルマガ購読者約18万人分の会員情報が外部に流出し、一部に架空請求書が送付されたことが判明しました。
業務委託先からの流出可能性が高いものの特定には至らず、警察に捜査を依頼するとともに、再発防止のため、個人情報保護に関する社内規定とセキュリティ対策を強化しました。この事例から、委託先の管理体制の重要性と、情報流出が発生した際の適切な対応の必要性を学ぶことができます。
参照記事:ファミマ・クラブ会員情報流出に関する調査結果報告について|ニュースリリース|ファミリーマート
東京女子医科大学病院の患者情報漏洩事件
2018年8月、東京女子医科大学東医療センターは、退職した医師が患者情報を不正に持ち出したことを発表しました。退職後に病院に侵入し、自身のID等で電子カルテを閲覧、患者の氏名や電話番号などの個人情報を不正に取得し、一部患者にコンタクトを取った事実が確認されました。
病院側は警察に相談し、情報漏洩について謝罪するとともに、再発防止に努めるとしています。
この事例から、退職者による情報漏洩のリスクと、アクセス権限の適切な管理の重要性を学ぶことができます。
参照記事:退職した医師が患者情報を持ち出し、東京女子医大が謝罪 | サイバー保険比較. com
事例から学ぶ教訓と対応のポイント
これらの事例から学ぶ教訓は、個人情報保護対策の重要性と、事前の備えの必要性です。技術的対策、人的対策、物理的対策を多層的に講じ、定期的な監査と改善を行うことが求められます。
また、万が一漏洩が発生した場合には、迅速な事実確認と公表、適切な顧客対応が重要です。二次被害の防止や信頼回復に向けた誠実な対応が求められます。
個人情報漏洩対応マニュアルの作成と継続的な改善で企業の信頼を守ろう
個人情報漏洩は、企業の信頼を大きく損なう可能性がある重大な問題です。
本記事では、個人情報漏洩の定義や影響、起こりうる原因を解説するとともに、対応マニュアルの作成方法や必要な項目、実際の事例から学ぶ教訓などを詳しく紹介しました。
個人情報漏洩対応マニュアルを作成し、平時から適切な対策を講じるとともに、万が一の際には迅速かつ適切な対応を行うことが求められます。自社の個人情報漏洩対応マニュアルを見直し、改善点があれば修正しましょう。
また、定期的な社内研修を通じて、従業員の意識を高めることも重要ですが、人的ミスは完全に防ぐことが難しいため、Watchy(ウォッチー)のような情報漏洩防止ツールを活用し、ミスが起きにくい体制を構築することも検討すべきでしょう。
個人情報保護対策の継続的な改善により、企業の信頼を守り、持続的な発展につなげていきましょう。
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Watchy編集部
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