USBメモリは携帯性に優れる一方で、紛失による情報漏洩事故が後を絶ちません。実際の事例を交えながら、想定されるリスクや必要な対応策、予防のポイントについて解説します。万が一、紛失が発生した場合の対応とともに、きちんと確認しておきましょう。
目次
USBメモリの管理不足による情報漏洩の実態
USBメモリの管理不足は、現代のデジタル社会において深刻な問題となっています。個人情報保護法の強化や、企業のコンプライアンス意識の高まりにもかかわらず、USBメモリの紛失による情報漏洩事件は多く発生しています。
こういった事件は単なる不注意や管理ミスから発生することが多く、一度発生すると組織全体の信頼失墜や法的責任を伴う重大な影響をもたらします。特に個人情報や企業機密など機密性の高い情報を扱う組織では、USBメモリの管理体制の見直しと強化が、喫緊の課題となっています。
USBメモリの紛失がもたらすリスク
USBメモリの紛失は、社外秘の情報や個人情報が第三者に渡る可能性がある重大なリスクです。情報漏洩はもちろん、企業ブランドの信頼失墜や法的責任など、多方面にわたり甚大な悪影響を及ぼすことがあります。こうした被害を未然に防ぐためには、USBメモリの管理体制を見直し、適切な対策を講じることが不可欠です。
社内の機密情報の漏洩
USBメモリには、顧客情報や営業資料、研究データなど、企業にとって重要な機密情報が保存されていることが少なくありません。紛失した場合、これらの情報が競合企業や第三者の手に渡り、知的財産の流出や営業戦略の漏洩など、事業競争力の低下につながります。
情報漏洩が発覚すれば企業活動の継続そのものに影響し、流出情報が悪用され、詐欺や標的型攻撃に利用される危険性もあります。
自社の社会的評判の失墜
情報漏洩が発生すると、企業の社会的信頼が大きく損なわれます。顧客や取引先に対する説明責任が生じ、メディア報道による悪影響も避けられません。
社名が公表されれば、ブランドイメージの低下や株価の下落、見込み顧客からの敬遠など、経営面にも長期的なダメージが及びます。一度失った信頼を回復するには多大なコストと時間を要するため、ささいな管理ミスが、企業の信用を脅かす結果になりかねません。
法的責任と罰則の恐れ
個人情報保護法などの法令により、企業は情報管理に厳格な責任を課せられています。USBメモリの紛失によって顧客情報が外部に流出した場合、行政指導や罰金などの法的制裁を受けるリスクが生じます。
また、被害者からの損害賠償請求が発生すると、企業は金銭的損失だけでなく、訴訟対応のコストや負担も負うことになります。こうした法的リスクを避けるためにも、USBメモリの適切な管理はもちろん、適切な情報管理体制の構築や、徹底した従業員教育などが必要です。
USBメモリの紛失による情報漏洩の事例
USBメモリによる情報漏洩事故は全国各地で発生しています。自治体や医療機関・民間企業など、さまざまな現場で現実に起こった事例から、紛失時の影響と事故原因を具体的に紹介します。
呉市の中学校教諭が約1,600人分の個人情報が入ったUSBメモリを紛失
2025年1月に広島県呉市の中学校教諭が、生徒とその保護者約1,600人分の個人情報を保存したUSBメモリを、紛失する事故が発生しました。
氏名や連絡先・成績情報などが外部に流出した恐れがあり、対象となる家庭には学校側から謝罪と状況説明が行われています。原因は、当該教諭が業務でUSBメモリを自宅へ持ち帰る際の管理不足とされ、教育機関のセキュリティ対策の甘さが浮き彫りとなりました。
※出典:呉市立中学校におけるUSBの紛失について|広島県呉市 報道発表資料
兵庫県立淡路医療センター、患者情報記録のUSBメモリを紛失
兵庫県立淡路医療センターでは、医療従事者が患者の診療情報を含むUSBメモリを、紛失する事件が発生しました。当該メモリには、763人分の患者の氏名・診療内容・検査結果など、センシティブな医療情報が記録されていたと発表されています。
医療機関では患者のプライバシー保護が特に重要視されており、この情報漏洩は医療倫理上も重大な問題となっています。病院側は速やかに患者への連絡を行い、謝罪するとともに被害拡大防止に努めるとしました。
事件を受けて、同センターではUSBメモリ利用の厳格化と、データ抽出時の個人情報の削除などの再発防止策を打ち出しています。
※出典:個人情報の紛失についてのおわび|兵庫県立淡路医療センター
NEXCO西日本関西支社の社員によるUSBメモリの紛失
高速道路の管理運営を担うNEXCO西日本関西支社でも、社員によるUSBメモリの紛失事故が発生しました。当該メモリには、原因者負担金に関する約200人分の個人情報が保存されていました。
USBメモリ自体は暗号化されていたものの、パスワードがUSBに貼付されていたため、セキュリティ対策としては不十分であったことが問題視されています。
公共インフラを担う組織としての責任は重く、今回の事故は社会的信頼を大きく揺るがしかねない事例となりました。
同社は個人情報保護委員会に報告するとともに、再発防止策として社員教育の徹底を進めるとしています。
※出典:個人情報が保存されていた可能性のある記録媒体の紛失についてのお詫び | NEXCO 西日本 企業情報
長野県佐久穂町で町民の金融情報を記録したUSBメモリを紛失
長野県佐久穂町では、町民の税務・金融関連情報が保存されたUSBメモリを、職員が紛失した事件が発生しました。
現状、不正使用などの被害は確認されていないものの、住民税務課の担当者と担当課長を訓告とし、町長と副町長の1カ月分の給与を減額するといった処分をしています。
公的機関による情報漏洩は、住民からの信頼失墜や、行政の責任問責など深刻な影響に発展しやすく、細心の注意と厳格なセキュリティ対策が求められます。
※出典:電子記録媒体紛失に関するその後の対応について|長野県南佐久郡佐久穂町プレスリリース
USBメモリを紛失した際にすべき対応
USBメモリを紛失した場合、迅速で適切な対応が必要です。初動の遅れや不十分な対応は、被害を拡大させる大きな要因となるため、以下のように、組織として明確な対応フローを整備しておかなければいけません。
即時の報告と状況の記録
USBメモリの紛失に気付いたら、すぐに上司やシステム管理部門など所定の窓口に報告するように、きちんとルールを定めておく必要があります。同時に、いつ・どこで・どのような状況下で紛失したのか、状況をできる限り詳細に記録しておきましょう。
たとえ曖昧な情報であっても、早期対応のため情報共有が非常に重要です。組織的な初動対処の迅速さが、その後の被害拡大防止に直結します。
情報漏洩の範囲や深刻度の確認
紛失したUSBメモリに含まれていた情報の詳細な分析を行い、漏洩の潜在的な影響範囲と深刻度を正確に把握します。個人情報の種類(氏名・住所・電話番号・メールアドレス・金融情報など)と件数、企業機密の内容と重要度、第三者への影響の可能性などを詳細に調査しなければいけません。
また、USBメモリの暗号化状況やパスワード設定の有無を確認し、情報への不正アクセスの難易度を評価することも重要です。これらの分析結果は、今後の対応方針決定の基礎になります。
被害者への迅速な謝罪
情報漏洩の影響を受ける可能性がある全ての関係者に対して、迅速かつ誠実な連絡と謝罪を行います。個人情報が含まれている場合は該当する個人に、企業情報の場合は取引先企業に、それぞれ適切な方法で連絡しましょう。謝罪の際は事実を正確に説明し、今後の対応方針を明確に伝えることが重要です。
また、被害者からの質問や不安に対して丁寧に対応し、必要に応じて個別の相談窓口を設置します。メディアに対しても、透明性を保ちつつ適切に情報を開示し、組織としての責任を明確に示すことが重要です。
再発防止策の検討
紛失事件を詳細に分析し、根本的な原因を特定した上で、実効性のある再発防止策を策定します。USBメモリの使用ルールの見直しや情報持ち出し手続きの厳格化、社員教育の充実、技術的対策の強化など、多角的に必要な対策を検討しましょう。
また、類似事例の調査研究を行い、他の組織の事例や教訓も参考にすることも大切です。策定した再発防止策は、経営陣の承認を得て組織全体で実施し、定期的な見直しと改善を継続します。加えて、社員への周知徹底と理解促進のため、研修プログラムの充実やガイドラインの作成なども必要です。
USBメモリの紛失を予防するための対策
紛失事故を未然に防ぐためには、日常的な管理体制の強化が不可欠です。技術的対策と運用面での工夫を組み合わせることで、リスクを最小限に抑えることが可能となります。
使用ルールと管理体制の整備
USBメモリの紛失を防止するには、業務用途に関する社内ルールを明確に定め、管理台帳による貸出・返却管理や特定部署のみ利用を許可するなど、組織的な運用体制の整備が不可欠です。
不注意による紛失防止のため、定期的なチェックと現場教育を合わせて実施し、利用ルールの順守を徹底しましょう。不要なUSBメモリの持ち出しはもちろん、個人所有端末の業務利用(シャドーIT)なども、厳格に制限・禁止する必要があります。
セキュリティ機能付きのUSBを活用する
技術的なセキュリティ対策として、暗号化機能やパスワード保護機能を搭載した、USBメモリの導入も有効です。これらのセキュリティ機能により、万が一紛失した場合でも、第三者による不正アクセスを防げます。
また、生体認証機能付きのUSBメモリを使用すれば、より高いセキュリティレベルを確保できるでしょう。リモートワイプ機能を搭載した製品であれば、紛失が判明した時点で、遠隔からのデータ消去が可能です。
加えて、組織で統一したセキュリティ仕様のUSBメモリを採用するのはもちろん、個人所有の一般的なUSBメモリの使用を禁止することで、セキュリティレベルの標準化も図ることも大切です。
USBに依存しない業務環境に切り替える
根本的な解決策として、USBメモリに依存しない業務環境への移行も有効です。近年はクラウドストレージの導入により、インターネット経由で安全に、業務ファイルを共有・管理できる環境を構築できます。
加えて、VPN(仮想プライベートネットワーク)を活用したリモートアクセス環境を整備すれば、外出先からも社内システムに安全にアクセスが可能です。
さらに、社内LANやイントラネットを活用したファイル共有システムも強化し、物理媒体を使用せずデータのやりとりができる仕組みも検討しましょう。USBメモリの使用機会を大幅に削減し、紛失による情報漏洩のリスクを排除できます。
安全にデータを管理できる体制を構築する
USBメモリの紛失は、企業や自治体に深刻なリスクをもたらします。実際に起こった事件からも分かるように、個人情報や社会インフラ関連のデータが外部に流出することで、信用失墜や法的責任といった重大な影響が生じます。
事故を起こさないための予防策を徹底するのはもちろん、万が一事故が発生した際に迅速に対応できる体制の構築も必要です。運用ルールの整備やセキュリティ機能の導入、クラウド環境の活用など、多角的な取り組みを進めることで、組織全体の情報管理体制を強化しましょう。
なお、USBメモリの紛失リスクを低減するには、さまざまな外部記憶媒体の利用状況をリアルタイムで監視・記録できるツールの導入も有効です。
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