IT統制は、企業の情報システムを正しく安全に運用するための重要な仕組みです。特にIPOを目指す中小企業では、内部統制との関係をきちんと理解し、段階的な整備が求められます。自社に最適なIT統制の仕組みを構築し、健全な経営基盤を整えましょう。
目次
IT統制とは何か?
IT統制とは、企業がITシステムを活用する際に、業務の正確性や安全性を保ち、リスクを管理するための仕組みです。たとえば、システム操作のチェック体制やアクセス制御などが該当します。
具体的には、システムの開発から運用・保守に至るまでのプロセスにおいて、適切な手続きとチェック体制を構築することを指します。適切なIT統制により、情報の正確性や完全性が保たれ、不正や誤りの防止につながります。
内部統制との関係
IT統制は、企業の内部統制システムの一部と考えられています。内部統制が企業全体の業務プロセスを対象とするのに対して、IT統制はIT関連業務に特化した統制活動です。両者は密接に関連しており、効果的な内部統制を実現するためには、IT統制の整備が求められます。
特に、財務報告の信頼性確保においては、ITシステムによる業務処理が多くを占めるため、IT統制の重要性はより一層高まっています。現代の企業活動では、ITシステムなしに業務を遂行することは困難であり、内部統制の有効性を担保するには、IT統制の適切な整備・運用が不可欠です。
なお、金融庁の「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」によると、「IT(情報技術)への対応」は、「IT環境への対応」「ITの利用」「ITの統制」の3つに細分化されます。
「IT環境への対応」とは、社会や市場におけるITの動向を理解し、自社に合う形でITを取り入れていくことを指します。「ITの利用」は、ITをより良く活用し、社内における情報処理の有効性、効率性などを高めていくことです。
ITを取り入れ、活用を始めた先の段階として、トラブルや不正を予防するための適切な運用・管理(ITの統制)があります。
IT統制の目的と必要性
T統制の目的は、企業のITシステムが安全かつ確実に機能し、業務の信頼性や効率性を支えることです。そのために、IT統制は以下の5つの役割を担います。
- 業務の有効性および効率性
- 準拠性(コンプライアンス)
- 信頼性(財務における正確な記録・処理)
- 可用性(必要な時に情報を利用できる状態)
- 機密性(セキュリティ)
このように、IT統制とは企業がITを活用する際に生じるリスクを管理し、業務の正確性や効率性を維持するための仕組みです。
その役割は第一に、システムやデータの信頼性を確保し、誤処理や不正行為を防ぐことです。加えて、情報セキュリティを強化し、外部からの攻撃や内部不正による被害を防止することも求められます。
さらに、法令や規制の順守により、監査対応や企業評価において信頼性を高められます。これらの役割を通じて、IT統制は企業価値の向上と持続的な成長に寄与します。
IT統制は中小企業にも必要か?
中小企業においても、IT統制の整備は必要性を増しています。規模が小さいからといってIT統制が不要ということはありません。むしろ、限られたリソースの中で効率的に業務を遂行し、リスクを管理するためには、適切なIT統制が重要です。
特に中小企業の場合、ITシステムの導入により業務効率が大幅に向上する一方で、システム障害や情報漏洩が発生した場合の影響は、企業存続にも関わる重大な問題となり得ます。また、取引先からの信頼獲得や金融機関からの融資条件改善、将来的なIPOを見据えた場合にも、IT環境の整備は不可欠です。
IT統制の分類
IT統制は、その適用範囲と目的に応じて、「IT全社的統制(戦略レベル)」「IT全般統制(システム運用レベル)」「IT業務処理統制(システム運用レベル)」の3つに分類されます。
- IT全社的統制:企業全体のIT戦略や方針に関する統制であり、経営層の関与と責任が重要
- IT全般統制:ITシステムの開発・運用・保守といった基盤的な活動に関する統制
- IT業務処理統制:個別の業務プロセスにおいて、IT処理の正確性・完全性を確保するための統制
これらは互いに補完し合い、企業の内部統制の中で総合的に機能します。分類ごとに目的や対象が異なるため、バランス良く整備する必要があります。
以下、それぞれの統制において、注力すべきポイントを確認していきましょう。
IT全社的統制のポイント
IT全社的統制は、組織全体あるいは企業グループ全体のIT環境を健全に保つために、経営者が実行すべきものです。まずはITの利活用に関する戦略や計画・方針を定め、組織全体に適用する必要があります。
ITにかかる方針の策定と社内への提示
IT全社的統制の第一歩は、企業のIT利用に関する基本方針を明確化することです。この方針には、情報セキュリティやシステム運用・リスク対応の基本姿勢を盛り込む必要があります。策定した方針は経営層が承認し、全社員に周知する必要があります。
社内ポータルや定期研修・説明会などを実施して、現場レベルまで浸透させることで、日々の業務判断や行動が統制方針に沿ったものになります。
ITリスクの洗い出しとリスク管理の推進
企業活動におけるITリスクは、システム障害や情報漏洩、サイバー攻撃など多岐にわたります。業務プロセスやシステム構成を把握し、どこにリスクが潜んでいるかを洗い出すことが大事です。その上で、リスクの重大性や発生可能性を評価し、優先順位を付けて対応策を講じます。
リスク管理は一度きりではなく、定期的な見直しが求められます。事業環境やシステム構成の変化に応じて継続的に改善することで、予期せぬトラブルに備えましょう。
統制プロセスの構築・整備
ITリスクを把握したら、それに対応する統制プロセスを構築します。例えば、システム変更時の承認フロー、障害発生時の報告ルール、権限付与や削除の手順などが該当します。これらは文書化し、関係者が容易に参照できるようにしておくことが重要です。
また、手順が現場の実態に合っていなければ形骸化しやすくなるため、運用状況を定期的に確認し、必要に応じて改訂します。統制プロセスの整備は、日常業務の中で自然に守られる仕組みにするのがポイントです。
情報伝達・共有の仕組みづくり
IT統制を機能させるには、組織内での情報共有が欠かせません。特に障害やセキュリティインシデントが発生した際には、迅速で正確な情報伝達が求められます。社内チャットやメール、専用の通報システムなどを活用し、関係者全員が必要な情報にアクセスできる環境を整えます。
定期会議や報告書でのIT運用状況や改善策の共有は、日常的な情報共有の一環として、組織全体の意識向上にもつながります。
状況のモニタリング・改善
統制の有効性を維持するには、状況を継続的にモニタリングする仕組みも求められます。定期監査や内部チェック、アクセスログの分析などにより、統制が計画通りに運用されているかを確認しましょう。問題が見つかった場合は、きちんと原因を分析し、改善策を迅速に実行する必要があります。
モニタリングは単なる監視ではなく、改善活動の出発点です。継続的な改善を通じて、統制レベルの向上とリスクの低減を図りましょう。
IT全般統制のポイント
IT全般統制は、システムの開発・運用・保守やセキュリティなど、IT基盤全体の管理を対象とします。技術的な側面から統制を支える重要な領域であり、以下の取り組みが挙げられます。
システム開発・保守プロセスの整備
システム開発と保守プロセスの整備は、品質の高いITシステムを構築し、継続的に改善していくための基盤となります。
開発プロセスでは、要件定義から設計・プログラミング・テスト・本稼働まで、各段階での成果物と承認手続きを明確化します。特に、ユーザー要件の正確な把握と変更管理の徹底により、仕様変更による混乱やコスト増大を防ぐことが重要です。
また、テストの工程では、単体テスト・結合テスト・システムテスト・ユーザー受入テストなど、それぞれの段階で適切な検証を実施し、品質を確保します。保守プロセスでは、システム変更時の承認手続きからテストの実施、本稼働後の監視体制などの整備が必要です。
システム運用と障害対応体制の確立
安定したシステム運用には、日常的な監視と迅速な障害対応が不可欠です。運用担当者は、稼働状況や性能を定期的にチェックし、異常を早期に発見できる体制を整える必要があります。障害発生時には、影響範囲の把握と原因特定・復旧作業を迅速に行わなければいけません。
そのためには、事前に障害対応マニュアルを整備し、関係者が自らの役割を理解していることが重要です。定期的な訓練により、緊急時の対応力を高めることも重要です。
セキュリティ統制の強化
外部からの攻撃や内部不正からシステムを守るためには、セキュリティ統制の強化が必要です。OSやアプリケーションから、ネットワーク・サーバに至るまで、社内の情報資産に対して適切なアクセス制限を設ける必要があります。
加えて、暗号化やファイアウォールの設定、ウイルス対策ソフトの導入なども必須です。脆弱性診断やペネトレーションテストを定期的に実施し、セキュリティ上の問題が発見された場合には、速やかに修正しなければいけません。
外部ベンダーとの契約・業務に関する管理
システムの開発や運用・保守などを外部委託する場合、そこからの情報漏洩をはじめとした、さまざまなトラブルが発生するリスクがあります。
契約するベンダーを選定する際には、導入実績や資料も参考にしつつ、一定以上のサービスレベルを有する委託先か確認することが大事です。また契約書でセキュリティ対策の要件や、委託先への監査の実施を規定したりするのもよいでしょう。
IT業務処理統制のポイント
IT業務処理統制とは、社内の各業務を正確に処理、記録するための統制です。以下のように、入力や修正・データ管理・アクセス管理に関する取り組みなどがあります。
入力情報の正確性・完全性を担保する業務フローの構築
業務処理の出発点は正確なデータ入力です。入力情報が誤っていれば、その後の処理や集計もすべて誤った結果となるため、入力段階でのチェック機能や、承認フローをきちんと確立することが大事です。
例えば、必須項目の未入力や形式不一致を自動検出するシステム設定や、ダブルチェックによる確認などが有効です。また入力者と承認者を分けることで、不正や誤りの発生を抑える工夫も求められます。情報の正確性を保つには、業務フローを日常の作業に自然に取り入れ、無理なく運用できることが重要です。
エラー発生時の修正・再処理のルールと記録管理
業務処理の過程でエラーが発生した場合、修正方法や再処理のルールが明確でなければ、さらなる不正や混乱を招きかねません。エラーが発生した時には原因を特定し、適切な承認者の指示のもとで修正を行う体制を整えます。
修正内容や再処理の記録は、後から検証できるように残すことが不可欠です。記録には日時・対応者・修正内容・承認者などの情報を含めるとよいでしょう。これにより業務の透明性を高め、監査や調査時の説明責任を果たしやすくなります。
マスタデータの正確な維持と更新履歴の管理体制
マスタデータは取引先や製品、勘定科目など、業務の基盤となる情報を集約したものです。誤ったデータは業務全体に悪影響を及ぼしかねないため、常に正確に維持する必要があります。更新時には承認プロセスを設け、誰がいつどのような変更を行ったかを履歴として残しましょう。
また、定期的にマスタデータの棚卸しを行い、不要なデータや誤情報を整理します。こうした管理体制を構築することで、業務の信頼性が向上し、将来的なトラブルを防げるようになります。
アクセス権限・操作制限による業務処理の適正化
業務処理の適正化には、システム上のアクセス権限や操作制限の管理が欠かせません。権限は必要最低限とし、業務に不要な機能へのアクセスは制限しましょう。また、権限の付与や変更は承認プロセスを通じて行い、定期的に見直すことも大事です。
特に、社員の異動や退職などの際、権限削除を怠ると不正アクセスや情報漏洩のリスクが高まるので注意しましょう。加えて、権限ごとの操作ログを記録・監視することで、不正や誤操作を早期に発見できる体制の構築も必要です。
IPOに向けたIT統制で注力すべきポイント
IPO(株式公開)を見据える企業にとって、IT統制の整備は上場審査において重要な評価項目となります。公開企業としての信頼性確保と継続的な成長を支えるため、以下のポイントを意識しつつ、計画的にIT統制の強化を図りましょう。
IPOでチェックされやすい点を確認する
IPO審査において、IT統制は財務報告の正確性と内部統制の有効性の観点から評価されます。特に、アクセス権限管理、システム変更管理、障害対応、セキュリティポリシーの策定・運用などは重点的に確認される項目です。
また、記録や証跡が整っていないと、たとえ運用が適切でも「統制が機能していない」と判断される恐れがあります。上場準備段階で監査法人や証券会社のアドバイスを受けながら、自社の統制状況を客観的に把握し、必要な改善を進めることが重要です。
重要なリスクを中心に改善を重ねる
IPO準備期間には、限られた時間とリソースの中で内部統制を整備する必要があります。そのため、全ての課題に一度に対応するのではなく、リスクの重大性や発生可能性が高い領域から優先的に改善することが重要です。
例えば、財務報告に直結するシステムの統制や、情報漏洩リスクが高い領域などを先に強化するとよいでしょう。改善は一度で終わらせず、運用状況を見ながら段階的にブラッシュアップしていくことで、審査に耐えられる安定した統制体制を構築できます。
IT統制の整備は段階的に
IT統制は、一度で完璧に整えられるものではありません。特に中小企業やIPO準備企業では、リソースや時間の制約があるため、重要な領域から優先的に取り組むことが現実的です。
まずは全社的な統制により方針と体制を整え、IT全般統制で基盤を固めるとよいでしょう。その後、IT業務処理統制で現場の精度を高める流れが有効です。
また、統制は整備して終わりではなく、運用しながら改善を続けることが必要です。継続的なモニタリングと改善を通じて、リスクに強く、効率的で信頼性の高い業務環境を維持しましょう。
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これにより、担当者は日常的な監視業務の負担を軽減しつつ、問題発生時には迅速な対応が可能になります。まずは、以下の内部統制の取組みチェックリストを活用いただくとともに、サービスの導入もご検討ください。
内部統制の取組みチェックリスト - Watchy(ウォッチー)

Watchy編集部
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