DXの加速に伴い、企業における個人情報の取り扱いは複雑化の一途をたどっています。クラウドサービスやテレワークの普及により、情報漏洩リスクも増大する中、適切な個人情報保護体制の構築は企業の重要課題となっています。この記事では、「個人情報保護方針」の策定から運用まで、実務に即した解説を行います。
個人情報保護方針とは?
急速なデジタル化により、企業が取り扱う個人情報は年々増加の一途をたどっています。その中で、個人情報保護方針は組織の情報管理体制の根幹を成す重要文書として位置付けられています。ここでは、その基本的な概念から実務上の意義までを解説します。
個人情報保護方針の定義
個人情報保護方針は、組織における個人情報の取り扱いに関する基本的な方針を明文化した文書です。この方針には、情報の収集から利用、管理、そして廃棄に至るまでの一連のプロセスにおける組織の姿勢が示されます。
実務上の観点からみると、この方針は従業員の行動指針としても重要な役割を果たします。日常業務における個人情報の取り扱いルールを明確化することで、組織全体での統一的な対応が可能となるのです。
プライバシーポリシーとの違い
組織の個人情報保護に関する文書として、プライバシーポリシーと個人情報保護方針は異なる役割を担っています。
個人情報保護方針は、組織全体の個人情報の取り扱いに関する基本方針を示すものであり、主に社内向けの指針として機能します。ただし、場合によっては外部にも公開されることがあります。たとえば、ISO27001(ISMS)認証を目指す企業では、外部への公開が必要となる場合があります。
一方、プライバシーポリシーは、Webサイトやサービスを利用する顧客やユーザーに対して、個人情報の収集目的や利用方法を説明するもので、外部向けの情報提供を目的としています。
両者の整合性を保ちながら、それぞれの目的に応じた適切な内容を定めることが重要です。
特にデジタルサービスを提供する企業においては、この二つの文書の関係性を明確に理解し、適切な管理体制を構築することが求められます。
個人情報保護方針の作成は義務?
2022年の個人情報保護法改正により、個人情報取扱事業者には個人情報保護方針の策定と公表が義務付けられています。この法的要請に加え、近年のデジタル社会においては、適切な個人情報保護体制の構築が企業の信頼性を左右する重要な要素となっています。
法令順守の観点からも、また事業運営の観点からも、実効性のある個人情報保護方針の策定は不可欠となっているのです。特に、個人情報を大量に取り扱う事業者においては、より厳格な管理体制の構築が求められます。
個人情報保護方針で記載すべき基本項目
個人情報保護方針の策定においては、法令要件を満たしつつ、実務的な運用も考慮に入れる必要があります。以下では、方針に盛り込むべき重要項目とその具体的な記載方法について解説します。
取り扱いに関する基本方針
組織における個人情報保護への取り組み姿勢を明確に示すことは、ステークホルダーとの信頼関係構築において重要な要素となります。
基本方針では、法令順守への決意表明に加え、具体的な管理体制や責任所在の明確化について言及することが望ましいでしょう。
この部分では、組織のトップマネジメントによる個人情報保護への強いコミットメントを示すことで、社内外に向けた明確なメッセージとなります。具体的な表現としては、「当社は個人情報の適切な保護を経営上の重要課題として位置付け」といった形で、経営層の意思を明確に示すことが推奨されます。
個人情報の取得方法
個人情報の取得経路を明確に示すことは、透明性確保の観点から重要です。オンラインフォーム、対面での収集、業務上の記録など、想定されるあらゆる取得方法について具体的に記載します。
デジタル時代においては、Cookieなどの技術を用いた情報収集についても言及が必要です。利用者が自身の情報がどのように取得されるのかを理解できるよう、分かりやすい説明を心掛けましょう。
個人情報の利用について
個人情報の利用目的の特定と明示は、個人情報保護法の基本原則の一つです。利用目的は具体的かつ明確に記載し、情報主体が自身の情報がどのように活用されるのかを正確に理解できるようにする必要があります。
利用目的の記載においては、「当社のサービス提供のため」といった抽象的な表現を避け、「商品の配送」「アフターサービスの提供」「新製品情報の送付」など、具体的な用途を列挙することが望ましいでしょう。特に、マーケティング目的での利用やAI・機械学習による分析など、近年増加している新しい利用形態についても明確な言及が求められます。
データを安全に管理するための対策
サイバー攻撃の高度化に伴い、個人情報の安全管理措置は一層重要性を増しています。技術的対策と組織的対策の両面から、実効性のある保護施策を講じる必要があります。
具体的な対策としては、アクセス制御、データの暗号化、定期的なバックアップ、セキュリティ監視体制の構築などが挙げられます。
加えて、クラウドサービスの利用やリモートワーク環境下での情報管理など、現代的な業務形態に対応した対策についても言及することが重要です。
第三者への提供について
インターネットでつながったさまざまなサービスや企業が、お互いに協力して一つの大きな仕組みを作り上げている「デジタルエコシステム」の発展により、事業者間でのデータ連携が活発化しています。そのため、個人情報の第三者提供に関する方針は特に慎重な検討が必要です。
第三者提供を行う場合の判断基準、提供先の選定方針、提供時の安全管理措置など、具体的な手続きを明確化します。
また、クラウドサービス事業者への委託や海外への情報移転など、現代的なデータ流通形態についても適切な対応方針を示すことが求められます。
個人情報の開示・訂正・削除手続き
情報主体の権利を保護する観点から、個人情報の開示請求などへの対応手続きを明確に定める必要があります。特に、デジタル時代においては、迅速かつ効率的な対応が求められます。
手続きの具体的な流れ、必要書類、対応期間、手数料の有無などを明確に示します。オンラインでの請求受付体制の整備など、利用者の利便性に配慮した対応方針を検討することも重要でしょう。
作成時に注意すべき点
個人情報保護方針の策定は、法令要件への対応だけでなく、実務的な運用の可能性も考慮に入れる必要があります。ここからは、方針作成時の重要なチェックポイントについて解説します。
個人情報の範囲を明確化する
デジタル社会の進展により、個人情報の範囲は従来よりも広がりを見せています。位置情報やデバイスIDなど、新たな形態の個人情報についても適切な対応が必要です。
個人情報の定義においては、法令に基づく基本的な範囲に加え、事業特性に応じて保護対象とすべき情報を具体的に特定します。
特に、個人情報やCookie情報など、特別な取り扱いが必要な情報については、その旨を明確に示すことが重要です。
利用規約との違いに注意
利用規約と個人情報保護方針はしばしば混同されがちですが、その目的と役割は明確に異なります。双方の文書の整合性を保ちつつ、それぞれの特性に応じた適切な内容を定めることが不可欠です。
利用規約がサービス利用の一般的な条件を定めるのに対し、個人情報保護方針はデータ保護に特化した方針を示します。両者の関係性を明確にし、必要に応じて相互参照を行うことで、より効果的な運用が可能となります。
専門家のチェックを入れた方が安心
法制度は年々複雑化しており、特にグローバルなデータ流通を行う企業にとっては、各国の規制(GDPRやCCPA)に対応する必要があります。
専門家によるレビューは、法的リスクの洗い出しと実効性の高い改善策の提案に役立ちます。例えば、個人情報の管理体制やデータ保護手段が法律に準拠しているかを確認し、不足があれば具体的な対策を示してくれます。
また、外部の視点を取り入れることで、社内では気付きにくい課題やリスクを発見することが可能です。
このような専門家やセキュリティコンサルタントによるレビューを通じて、法的リスクの洗い出しと対応策の検討を行いましょう。
Pマークについても知っておこう
事業者の個人情報保護体制を客観的に証明する制度として、Pマーク(プライバシーマーク)制度が広く認知されています。ここでは、その概要とメリットについて解説します。
Pマークとは
Pマーク(プライバシーマーク)は、一般財団法人・日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)が運営する認証制度です。個人情報の取り扱いに関する一定の基準を満たした事業者に対して付与されます。
認証取得には、「JIS Q 15001個人情報保護マネジメントシステム-要求事項」に基づく個人情報保護マネジメントシステムの構築が求められます。この基準は、PDCAサイクルに基づく継続的な改善を重視しており、実効性のある保護体制の確立を促進します。
Pマーク取得のメリット
Pマーク取得は、対外的な信頼性向上だけでなく、組織内部の情報管理体制強化にも寄与します。特に、個人情報を大量に取り扱う事業者や、ビジネス上の取引要件としてPマークを求められる場合には、取得を検討する価値があるでしょう。
具体的なメリットとしては、取引機会の拡大、従業員の意識向上、情報漏洩リスクの低減などが挙げられます。
また、Pマーク付与の有効期間は2年間なので定期的な審査を通じて、保護体制の継続的な改善が図れることも重要な利点と言えます。
Pマーク取得のための要件とプロセス
Pマーク取得には、個人情報保護マネジメントシステムの構築から、社内規定の整備、従業員教育の実施まで、包括的な取り組みが必要です。
特に、今日のデジタル環境下では、テクノロジーの進化に対応した保護措置の実装も重要な要件となっています。
認証取得のプロセスは、通常6か月から1年程度を要します。PDCAサイクルに基づく予備診断、文書の整備、内部監査の実施、従業員教育など、段階的な準備を進めることが推奨されます。
取得後も、定期的な更新審査への対応が必要となります。
適切な個人情報保護方針で情報を管理する
個人情報保護方針は、単なる法令順守のための文書ではありません。それは、組織の情報セキュリティマネジメントの基盤であり、デジタル時代における企業の競争力を左右する重要な要素です。
本記事で解説した内容を基に、自社の事業特性に合わせた実効性のある方針を策定し、継続的な改善を図ることで、強固な個人情報保護体制を確立してください。
そして何より重要なのは、この取り組みを形骸化させないことです。経営層のリーダーシップのもと、全社一丸となって個人情報保護に取り組む企業文化を醸成することが、真の意味での情報セキュリティ強化につながるのです。
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著者情報
Watchy 編集部
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